病気克服、両親に感謝のアーチを 北海・江口選手 選抜高校野球
19日に開幕する第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)。開幕試合に登場する北海(北海道)の3番・江口聡一郎選手(3年)は右腕にしびれや痛みが生じる病気を克服し、夢舞台に臨む。復帰後、人生初を含め2本の本塁打を放ち、約4カ月間の治療とリハビリで心配をかけた両親にホームランボールをプレゼント。スタンドで見守る両親を前に3本目のアーチを放ち、感謝を伝えるつもりだ。 【センバツ出場32校をチェック】 「脱臼したと思うほどの痛みだった」。2020年6月の打撃練習中、激痛が右肩を襲った。右腕がしびれ、手を上げることもできない。「右胸郭出口症候群」と診断された。筋肉の硬化や骨の変形などで首から肩にかけて神経が圧迫され、顔や肩、手にしびれや痛みが続く病気だ。医師からは「もう一度、発症すれば野球を続けるのは難しい」と告げられた。 手術を受ければ秋の大会にも間に合わない。だが、家族は「来年の春、夏に間に合わせよう」と背中を押し、7月に手術を決断した。6日間入院し、退院翌日には練習に復帰した。右腕を三角巾でつったままグラウンドに立ち、バッティングマシンの球入れなどを手伝った。「少しでも早く野球をしたかった」 50キロあった握力は8キロまで低下した。箸が持てないほどの痛みに母晴美さん(47)は「ご飯をうまく食べることができないと本人も焦ってイライラするので、フォークで一口で食べられるような唐揚げやカレーライス、お弁当もおにぎりが多かった」と振り返る。 野球部の練習に加え、ゴムチューブを引っ張るリハビリにも懸命に取り組み、右腕が上がるまでに回復し、痛みも治まった。10月に行われた秋の全道大会で復帰し、ベンチ入りした。 復帰3戦目の札幌日大戦で、人生初となる本塁打を含む4打数2安打3打点の大活躍。投手戦となった決勝では八回に試合を決定づけるソロ本塁打を放った。二つのホームランボールは、両親に一つずつ手渡した。晴美さんは「気持ちは伝わりました。甲子園のグラウンドに立てるのが夢のようで、私自身、どんな気持ちになるのか楽しみです」と開幕を心待ちにする。 右肩は完治した。他の選手が冬の間に体を大きくしようと体重を増やす中、昨秋の71キロから3キロ程度増えただけ。右肩に筋肉をつけすぎると、血管が狭まるためだ。それでも練習では力強いスイングを繰り返す。「開幕戦でも強いスイングを意識し、長打につなげたい。勝負どころで1本打ち、勝ちにつなげたい」とスタンドに立つ両親を思い浮かべた。【三沢邦彦】