好調な絵本市場、出版は低迷しているが… 販売額10年で1・2倍 その理由は?
紙の書籍や雑誌の販売額が右肩下がりの中、絵本の売り上げがじわりと伸びている。絵本市場は10年前と比べて約1・2倍。従来のイメージである「子どもへの贈り物」以外にも需要があるようだ。人々を引きつける絵本の今を調べてみた。 【写真とグラフ】お勧めの絵本や絵本市場の推定販売額推移のグラフなど
堅調さ目を引く絵本市場
11月上旬、広島市西区の広島 蔦屋書店には約3万冊の絵本や児童書が並ぶ。絵本を開きながら会話を楽しむ家族連れや、じっくり1人で本を選ぶ人…。普段から絵本を読むという東京都の会社員女性(27)は「小説など長い本が読めないくらいくたびれたときでも、短くリズミカルな文章の絵本をさっくり楽しんでいます」と語る。海外旅行時に外国語の絵本を集めるのが趣味と話す神代さん。「全く知らない言語でも絵と文章の長さである程度意味をくみ取れるのも魅力です」 全国出版協会・出版科学研究所(東京)によると、紙の出版物の売り上げは1996年の2兆6564億円をピークに、2023年には1兆612億円まで落ち込んだ。一方で2014年に290億円だった絵本市場は、23年に1・2倍を超える351億円に成長し、堅調さが目を引く。
読書推進活動が後押し
背景には何があるのだろうか。同研究所の高橋史子研究員は、自治体がゼロ歳児検診などの機会に絵本を贈る「ブックスタート」事業など、読書推進活動の後押しを挙げる。ブックスタートを通じて親たちが積極的に絵本を買うようになったというわけだ。活動を支援する「NPOブックスタート」(東京)によると、事業は01年から日本で始まり、全国の6割以上の自治体が導入。広島県内では、尾道市や廿日市市などが実施する。同NPO以外も含めると19市町が絵本の贈呈をしている。
新人作家も台頭
20、21年には前年から20億円のペースで絵本の売上額が増加した。高橋研究員は「活動の浸透に加えて、新型コロナ禍で外出がままならず、これまで以上に子どもの情操教育や親子のふれあいに絵本が活用されているのでは」と分析する。 「パンどろぼう」の柴田ケイコさんや「りんごかもしれない」のヨシタケシンスケさんなど近年の新人作家の台頭もある。絵本は他のジャンルに比べて既刊本の占有率が高く、新刊は販売冊数の3割程度に過ぎない。ロングセラーなど評価が確立された作品に売れ行きが集中する傾向がある中で、23年の新刊の販売数は22年に比べて7%以上上昇した。「新刊のヒット作が出るたびに新たな読者層の広がりにつながっている」という。 子どもだけではなく、大人にも絵本の需要があるようだ。広島 蔦屋書店は19年、絵本売り場に大人向けの絵本を集めたコーナーを設置した。児童書の専門家「キッズコンシェルジュ」の宮本陽子さん(49)は「結婚や退職など大人への贈り物にも選ばれている。アート作品のように芸術として楽しんでいる人も多い」と明かす。
「自分のために購入する人も」
「自分のために購入する人も」と話すのは中区で児童書専門店「えほんてなブル」を営む松本道子さん(71)。就寝前にお酒を飲みながら読む絵本を購入していく人もいたという。「長年読み継がれている作品には大人の鑑賞にも堪えうる絵や深い物語が詰まっている。2歳で出合った絵本を20歳、80歳で読んでも毎回違う感情と出合える。そんな名作がたくさんあるのが魅力です」と語る。
中国新聞社