「帰れ」と破り捨てられた名刺、商品を何度「いらない」と言われても 飛び込み営業を重ねてつかんだ教訓
介護医療関連事業のエラン・峯崎友宏社長(51)
びりっ、びりっ。「忙しい。帰れ!」。差し出した名刺をもぎり取られ、その場で破り捨てられた。散り散りとなった紙片が、床に落ちた。 【写真】苦労の跡が垣間見える、入社間もない頃の日報とスケジュール帳 2003年12月16日。同年8月にエラン(長野県松本市)に入社したばかりの峯崎友宏さんは、川崎市の老人保健施設を訪れていた。当時31歳。この年の5月にサービスの提供を始めた、入院患者や施設入所者向けに衣類やタオルを1日単位の定額で貸し出す「CS(ケア・サポート)セット」の営業が目的だった。 「事務長さん、いらっしゃいますか?」。受付に姿を見せたのは60歳ほどの男性。表情が険しい。「エランの峯崎です」とあいさつし、名刺を差し出すと、男性は受け取りざまに名刺を破った。 あまりの衝撃に面くらい、「分かりました、すいません」と施設を後にした。悔しさ、悲しさ、困惑…。さまざまな感情が込み上げた。
当時在籍していた相模原市の支店に戻って報告すると、創業者で社長の桜井英治さん(現会長)が語った。「多分朝、奥さんとけんかして機嫌が悪かったんだよ。明日もう一度行ってみようか」 翌日、恐る恐る施設に男性を訪ねると意外な反応が返ってきた。「昨日はごめん」。聞くと、前日は直前の会議で面白くないことがあったという。名刺を交換し、念を押された。「もう来なくていいからね」。名刺を持ち帰れば上司も納得するでしょう―と。 怒られると思い込んでいた峯崎さんはほっとして支店に戻った。すると再び桜井さんが背中を押した。「いいねえ。明日も行ってみようか」
翌18日。三度目の訪問に男性も「怖い」と引いていた。「すいません。事務長に元気をもらいたくて」。峯崎さんが食らいつくと、会議室に上げてくれた。そこで初めてCSセットを話題にできた。施設で使っているタオルの質がいまいちだと分かり、急きょ同席した現場担当者が興味を持った。前向きに検討が始まり、後日、導入が決まった。 「このお客さまには今もCSセットをご採用いただいています」。22年に社長に就いた峯崎さんは、CSセットの営業のため、入社直後から東京都や神奈川県の病院や高齢者施設を飛び込みで訪問していた日々を懐かしむ。