二拠点で暮らすという生き方に惹かれて。自分の理想の暮らしを模索する|劇団EXILE・佐藤寛太の旅手引き #15
二拠点で暮らすという生き方に惹かれて。自分の理想の暮らしを模索する|劇団EXILE・佐藤寛太の旅手引き #15
岩手を拠点に、ネパールと東京を行き来しながら写真家として活動する飯坂大さんの岩手のご自宅におじゃました。2泊3日、ご家族と生活を共にすごさせてくれた日々のこと。 。 文◉佐藤寛太 写真◉佐藤寛太、飯坂 大。
山に囲まれた街で、地域に暮らす方々と共に生きる。自分の理想の暮らしが少し見えた気がした
目が覚めると、障子に透かされた陽の光が部屋の中を満たしていた。今日はきっと晴れるに違いない。 階下から漂う生活の音と朝食の匂いに懐かしさを覚え、ゆっくりと体を起こす。少し急な階段を、寝ぼけて踏み外さないよう慎重に下りた。 「おはようございます」。 引き戸を開けると三つの笑顔と目が合う。 朝8時、すでに食卓には湯気が漂う朝食が揃っていた。手伝わなかったことに一抹の申し訳なさを感じながら席に着くと、近所の方が朝摘んでくれた苺が机に並び、近くの山で採れたという山菜と筍がお味噌汁に浸かっている。幸せだなぁと、こぼれ出た言葉はシャボン玉みたいに宙に浮かんで空気になじんだ。 僕はいま、飯坂大さんの家におじゃましている。大さんは岩手を拠点に、ネパールと東京を行き来しながら、ネパールの山岳地帯ヒマラヤに点在する村を何年もかけて泊まり歩き、人々の暮らしを写真に収め、文字に起こすことで記録し、グレート・ヒマラヤ・トレイルを踏査する 「GHT project 」という活動。そして日本の各地で山と暮らしについて語る「山のことを話そう」という巡回展を行なっている写真家だ。 PEAKSの誌面のお仕事で数年前にごいっしょしてからインスタグラムで繋がっていた大さんに、一週間ほど前、突然「家におじゃましたいです」とメッセージを送った。 ことあるごとに、いろんな媒体で口にしているが、俳優という仕事はとても不安定な仕事だ。最後に休んだのはいつだっけという日々と、最後に働いたのはいつだっけという日々を繰り返す。 都会で歳を重ねるなかで、‟暮らす”ということを大事にしなければと思うようになってきた。手に取る本もそういったものが増え、理想ばかりが膨らんでいく。 できれば山に囲まれた場所で、自然のなかで体を鍛え、庭で野菜を育てたりできたら最高だな。自分で堆肥作りなんかして、後々は電力も自分で賄えたりして。 なんて空想に浸っているが、休みの日には映画館に行き、定食屋でランチを食べ、きれいなジムに通い、夜は連絡すればすぐにだれかに会うことができる。都会の旨みを最大限享受した生活にどっぷりだ。しかし、職業としての勉強は続けながらも、生き方を自分で選んでいきたい。東京と、どこか海か山が見える土地。二拠点で暮らすという生き方にとても惹かれている。 実際に暮らしを体感したくて大さんに連絡してみた。突然の連絡、訪問なのにもかかわらず心から歓迎してくれ、2泊3日、ご家族と生活を共にすごさせてくれた。 山に囲まれた街で、地域に暮らす方々と共に生きる。岩手という場所がすごく好きになった。少し自分の理想の暮らしが見えた気がした。 「ヒマラヤの村々で人に優しくされて、受け入れられて、旅をしてきたから、この土地に遊びにきてくれる人を僕も歓迎したい」。 大さんの横顔は優しくて、夢を語る瞳は輝いていた。 行きたい国はいっぱいあるし、日本の山もたくさん登りたい。仕事のキャリアも捨てたくないし、気になることは挑戦したい。 なにごとも実践してみないとわからない。意志を固めることなく、その土地に骨を埋めると意気込むわけでもなく、挑戦してみてもいいかもしれない。たかが引っ越しだ。 ラダックの山岳地帯で生きていた人々のような暮らしを夢見て、俳優としての夢に地に足つけて、まだ旅をするように生きていたい。
PEAKS編集部