<不買運動は本当か?>ユニクロ・柳井氏のウイグル綿「使っていない」発言の背景、見え隠れする中国人の本音
「実はユニクロの服を何枚か持っている」
だが、よく見ると、以下のようなコメントも少なくなかった。それは「どのような綿を使っていても構わない。消費者にとっては品質のよさ、安全性がいちばんだ」「関係ない。ただ安く売って、多くの人が買えるようにしてほしい」「ユニクロの商品はやはり品質がいいんだよね。実はユニクロの服を何枚か持っている」 具体的に新疆の少数民族問題に言及している意見は少なく、報道を見て、感情的に「もう買わない」とする短いコメントが多かったが、それに対しても「冷静になってみよう」といった呼びかけもあり、烈火のごとく怒っているといった感じではない。少なくとも、こうした声に端を発して、大規模な不買運動につながるような動きがあるようには感じられなかった。 というのも、筆者が見たところ、中国の北京や上海などの大都市に住む人々にとって、新疆ウイグル自治区は距離的、心理的に遠いところである。普段は、それほど深い関心を寄せている地域ではない、ということがある。 筆者が2022年に出版した『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)では、中国人が今の中国の体制や社会について、本音ではどう思っているのか、について取材している。その中で、中国の大都市に住む女性がウイグル問題について、次のようにコメントしていたのが印象的だった。 「海外の人からよくウイグルの人権問題について指摘されますが、正直にいえば、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません」 別の中国人もコロナ禍の20年、新疆ウイグル自治区を旅行したが「現地のホテルでは、ガイドとウイグル問題について話すこともありました。でも、同行した観光客たちに、深い関心を示す人はいませんでした」
今後のユニクロの中国事業
むろん、これは筆者が取材した人の話に過ぎず、実際には多様な意見があると思われるし、SNS上ではとくに「愛国心」を持ち出して欧米への怒りを爆発させたり、炎上したりすることがしばしば起きている。だが、海外(とくに欧米諸国)から厳しい目で見られている国内問題について、強く意識したり、反発したりしている人ばかりではなく、無関心の人もいることは確かだ。 今後、柳井氏の発言が、ユニクロの中国での販売にどのような影響があるのかは未知数だ。ただ、ファーストリテイリングの24年8月期の連結売上高のうち、中国事業は6770億円と全体の22%を占めており、海外では中国事業の売上高が最も大きい。 現在、中国の小売業界は全体的に厳しい状況であることは確かで、ユニクロにとっても厳しい。しかし、柳井氏は「中国の重要性は変わらない」と発言しており、今後も中国市場でビジネスを展開していくことに変わりはないだろう。
中島恵