リンダ・グラットンが教える「80代でもロックンロールを貫くミック・ジャガーから学べること」
なぜ老年期も輝けるのか
80代になってもなおツアーを続けられるミック。その彼に向けるべき問いは、「どのように」ではなく、「なぜ」そうするのかではないか、と私は思う。 これは、なぜ人々が人生の最後の30年間においてもなお生産的であり続けたいと願うのか(私はミックが100歳まで生きると思っている)という核心に迫る問いだ。 彼はお金を必要としているわけではない。また、音楽が自分の「情熱」だからとか、ステージに立つのが「自分の特別な場所だから」だと語るにはあまりにもクールすぎる。 ミック・ジャガーがツアー、作曲、ボーカルを続けられるのは、彼がそれに素晴らしく秀でているからであるが、それは生涯かけて修練を続けるほどに楽しい活動だからでもある。退屈している暇などないくらいに。
ミックが教えてくれる「練達」の力
私は、昔のミックと同じくらいにいまのミックのことが好きだ。 私は彼が、80代を迎えるとはどういうことか、80代にはどういう振る舞いがふさわしいか、といった年齢差別的な先入観に一石を投じてくれたことをありがたく思っている。 彼はこういう風にカテゴライズされるのを嫌がるだろうが、私は彼を「社会的先駆者」だとみなしている。彼はいつだって前面に出て、同世代の人たちをけん引してきた。 若い頃から彼は、因習をぶち壊し、世界をまったく違うものに見せてくれた。 そして現在でもそれを続け、先頭に立ってどうあるべきかを示す。80歳になってもスキニーのレザーパンツを履き、スパンコールのTシャツをまとい、まばゆいばかりのスタジアムに立つことだってできるのだ、と。 彼は練達の力がいかなるものか、つまり、長い社会人生活のなかで、スキルと知識を深めることがどれほど称賛に値することかを示した。 何千時間もの反復、厳しいフィードバック、研鑽、リハーサル、そしてリライト。ミックは、ソロアルバム『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』がこきおろされても辛抱した。 彼は長い生涯のうちに、世界を変えてしまうようなテクノロジーの台頭をすでに経験している。彼より若い人たちも、何十年後かに生成AIなどのようなテクノロジーによる生活の変化を経験するだろう。 高度なスキルや技術を通じた練達は、一歩前に進むためのひとつの方法だと私は考えている。 またバンドへの献身は、彼が仲間意識や生涯にわたる美しい友情を大切にしていることを表す。それでも単に「友達とつるんでいる」という感覚なのだからまばゆいばかりだ。確かに、彼とキース・リチャーズはときに反目し合った。でも次のリフに移る際にチャーリー・ワッツと視線を交わすのを見たなら、それが生涯の友情だ。 だから、ミック。あなたにありがとうと言いたい。誰もあなたにはなれないけれど、年齢差別的な思い込みを退け、生涯をかけた練達の喜びに感動し、友情の喜びを享受することで、あなたのようになりたいものです。
Lynda Gratton From The Times