「帰れば死ぬ!」強制送還の瀬戸際でアフリカ系男性は叫んだ 認定の厚い壁、改正入管難民法に募らせる不安
男性を巡る東京高裁判決は、こうした判例の流れに沿ったものだと言えるが、今年6月に成立した改正入管難民法は、男性に新たな問題を引き起こそうとしている。 改正法は、送還停止効を原則2回に制限する。すなわち、「相当の理由」を示さない限り、3回目以降の申請をする人に対し、強制送還を命じることが可能になった。入管当局は申請を繰り返すことで帰国を拒む「送還忌避者」が多いことを理由としているが、2度目の申請となる男性にとっては「ラストチャンス」になりかねない。また、改正法では「送還忌避罪」も新設された。過去に送還を妨害したことがあり、再び同様の行為をする恐れがある場合に適用され、男性はその対象になり得る。 男性の代理人の大橋毅弁護士は「改正法は、真の難民を送還することが当たり前になり、横暴な送還が日常化していく恐れがある」と懸念を示す。また「男性のように『帰れない』と訴える行為すら送還妨害とみなされ、処罰の根拠とされる可能性がある。帰らない意志を抑圧するための暴力も正当化されかねない」と指摘する。
そもそも、改正法の国会審議過程で強い反対の声が上がったのは、男性のように日本国に庇護を求めても、難民と認められる人が他の先進国に比べ著しく少ないためだ。日本は1982年に難民条約に加入したが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の2022年データによると、難民認定率は、カナダ59・2%、米国45・7%などに対し、日本はわずか2%。政府は「保護すべき人は保護している」と強調するが、難民受け入れに消極的だという批判は国内外から根強い。国会審議を通じ、難民認定を巡る審査の公平性への疑念も高まった。 全国難民弁護団連絡会議(全難連)の渡辺彰悟代表は、「日本の審査は国際基準とかけ離れた独自の厳しい基準を設け、政策的に難民認定をしている」と批判。恣意的で不透明な審査手続きが改善されないまま、「強制送還ありき」の改正案が成立したとし、「難民認定部門を入管庁から切り離さない限り、適正な審査はできない」と訴える。