成功して驕らず、失敗して落ち込まず~平常心が大事|約30年、稲盛和夫氏のもとで学んだこと【運命をひらく生き方ノート】
京セラ、KDDI(創業時は第二電電企画株式会社)を創業し、それぞれを大企業に育成した後、会社更生法の適用となった日本航空(JAL)の再建を請け負い、わずか2年7か月で再上場へと導いた日本を代表する経営者、稲盛和夫氏。今なお多くのビジネスパーソンに影響を与え続けています。 写真はこちらから→成功して驕らず、失敗して落ち込まず~平常心が大事|約30年、稲盛和夫氏のもとで学んだこと【運命をひらく生き方ノート】 大田嘉仁さんは新卒で京セラに入社。37歳で稲盛氏から特命秘書に任命され、JALの再建にも第一線で携わるなど約30年間にわたり側近として稲盛氏の仕事を間近で見てきました。稲盛氏の言葉や教えを書き留めた60冊のノートを元に綴ったのが『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)です。稲盛氏に関する書籍は多く出版されていますが、大田さんしか知り得ない稲盛氏のエピソードや生の言葉の描写から、新しい稲盛氏の実像が浮かび上がってくるのが本書の大きな魅力。不確定要素の多い現代社会を生きる私たちに光明を与えてくれる珠玉の言葉が詰まっている1冊です。今回は、稲盛さんの「生き方」に関する言葉を紹介します。 文・大田嘉仁
成功して驕らず、失敗して落ち込まず~平常心が大事
確固たる哲学を持ち、一所懸命努力して一日一日を精一杯生きていても、それでも失敗することがあるのが人生です。そのときに、「この失敗は神様が与えた試練だから、乗り越えたら、素晴らしい人生が待っている」と前向きに考えることができるか、それとも「こんなに頑張っているのに失敗するのはどうしてなんだ。社会がおかしいじゃないか」と思うかで、人生は大きく変わると稲盛さんは語っています。 稲盛さんは、子供の頃の自らの体験に重ねて「人生は心に思ったことが現象として表れる」ことを確信しました。さらには、師と仰ぐ京都・円福寺の西片擔雪老師から因果応報、善因善果、悪因悪果という人生の決まり事を教えてもらいました。そのことから、どんな厳しい環境に置かれても「常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心」が大切であり、「成功して驕らず、失敗して落ち込まず」という姿勢を忘れてはならないと私たちに伝え、その反対に「思いの中に不安や恐怖心があれば必ず失敗する」と警鐘を鳴らしています。そのためには「平常心が大事だ」と稲盛さんは言います。どんなに忙しくても、たとえ体調が悪くても、さらに言えば、どんな逆境に置かれても、成功しても、心が乱れることのない平常心が大事だというのです。 そうは言っても、次から次に思いがけないことが起こり、計画したように物事が進まなければ、心はそれに反応して落ち込んだり、荒れ狂ってしまうことさえあります。稲盛さんは「そういう喜怒哀楽も大事だから、それがいけないというわけではない」と否定はしません。しかし、いつまでもそれを引きずって心が不安定では、判断を誤ってしまう。だから、できるだけ早く平常心に戻るように努め、心が穏やかになったときに判断をしなければならないと教えています。ただ、自分の心がどのような状況にあるのかは、自分でもすぐには分からないものです。それを知るために必要なのが、「反省ある毎日を送る」ことだと稲盛さんは語っています。稲盛さん自身、毎朝、洗面をする際に、前日の自分を振り返り、反省することを習慣としていました。そして、平常心を失い、何か人間としておかしな言動をしていたことに気が付くと「神様ごめんなさい」と声を出して謝っていたそうです。その結果、「たくさん間違った判断をしてきたが、すぐに修正してきた」とも率直に話していました。 また、こんな言葉も残しています。 「人間は人の心は見ようとするが、自分の心は見ようとしない。自分の心を一皮むけば、低次元のくだらないことを思い描いている。それを反省し、理性で戒めなければならない」。政治家がよく口にするような表面的な反省ではなく、心の奥底に何があるのかを確認したうえでの心からの反省でなければ意味はないということです。それに加えて、「感性的な悩みをしない」ことも心を落ち着かせ、平常心を保つためには大切だと教えています。 「心の悩みをくよくよといつまでも持ち続けないことが大事です。現世では頭を悩ますようなことはいくらでも起きてきます。そんなことにとらわれるより毎日を明るく前向きに一生懸命生きることのほうが大切なのです」「そうすれば必ず運命は開かれていきます」と稲盛さんは諭しているのです。「ミスをして迷惑をかけてしまった」「親しい友人と喧嘩してしまった」「約束を破られた」というようなことは日常茶飯に起こります。それで気落ちしてくよくよしても、何も解決しません。むしろ、それで悩み続けていると健康を害してしまうかもしれません。反省すべきは反省し、「覆水盆に返らず」というように、終わったことは仕方ないと忘れて、すぐに明るく前向きに一生懸命生きるべきなのです。 このように心がけることで平常心が保てる。つまり、「一生懸命生きて安心立命できる」のだと稲盛さんは教えているのです。 * * * 運命をひらく生き方ノート 大田嘉仁 致知出版社 2,200円 大田嘉仁 (おおた・よしひと) 昭和29年鹿児島県生まれ。昭和53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、平成22年日本航空会長補佐・専務執行役員に就任(平成25年退任)。平成27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任、平成29年4月顧問(平成30年退任)。現職は、MTG相談役、立命館大学評議員、鴻池運輸社外取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。 著書に『JALの奇跡』(致知出版社)、『稲盛和夫 明日からすぐ役立つ15の言葉』(三笠書房)などがある。
サライ.jp