「最高裁事務総局での生活は苦痛でしかなかった」…アメリカ留学から帰国した「エリート裁判官」を待ち受けていた2年間の”地獄の日々”
民事局での緊迫した「空気」
本書全体の記述の前提知識として、最高裁判所の機構についてここで示しておく。 局付生活に苦痛を感じていたのは私だけではない。現在は東京等の大高裁裁判長、地家裁所長、あるいは大地裁の裁判長となっている当時の局付たちは、ほとんどが、息をひそめて、事務総局から出られる日を指折り数えながら待っていたものである。 数少ないすぐれた中国映画の一つである『鬼が来た!』(チアン・ウェン監督、2000年)に、村人たちと歓談している日本兵たちが、その場の「空気」の流れに従って自然発生的に虐殺を始めるシーンがある。非常によくできているそのシーンは、本当に恐ろしい。現在の日本人の間にも、そういう「空気」の支配に流されやすい性格は相変わらず残っているからだ。 私が民事局にいたころ、司法行政を通じて裁判官支配、統制を徹底したといわれる矢口洪一最高裁判所長官体制下の事務総局には、もしもそこが戦場であったなら先のようなことが起こりかねないような一触即発の空気が、常に漂っていた。 『ある裁判官のゲスすぎる提案に絶句「週刊誌にリークすればいい」…日本の裁判所で日夜行われる仁義なき「出世のための戦い」を大暴露』へ続く 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。
瀬木 比呂志(明治大学教授・元裁判官)