家族旅行や習い事は「贅沢品」なのか…低所得家庭の子ども約3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃
本書の構成
本書では、この調査から見えてきた日本社会の姿を描くことを第一の目的としている。極めて重要なことに、年収300万円未満のいわゆる「低所得家庭」では、子どもたちの「体験」が平均的に少ないというだけでなく、「体験」の機会が過去1年間で一つもない「ゼロ」の状態にある子どもたちが、全体の3人に1人近くにまでのぼることがわかった【第一部 体験格差の実態】。 こうした定量的な調査に加えて、私は日本の様々な地域で暮らす低所得家庭の保護者たち(主にシングルマザーの女性たち)とお会いし、体験格差の現状について直接お話を聞いた。彼女たちの中には、自分の食事を削ってまで子どもの習い事にお金をかけているという方もいれば、それすら叶わず今は子どもの願いをあきらめさせざるを得ないと語る方もいた。それぞれの家庭に固有の状況がありつつ、「体験の壁」となる様々な共通点も、そこからは見えてきた【第二部 それぞれの体験格差】。 最後に、この日本社会が「体験」の機会をすべての子どもたちに届けられる社会へと変わっていくために、私たちがこれからなすべき様々な打ち手についても検討を進めた。私が特に鍵になると考えているのは、各地域に存在する(しうる)体験の「担い手」たち、そしてかれらの活動を社会的に支えるための仕組みだ【第三部 体験格差に抗う】。 一口に「体験」と言っても、その潜在的な範囲はとても広く、明確な境界線を定めきることはできない。だが、そうであるからこそ、「体験格差」についての調査や考察を進めるうえでは、試行的にでも何らかの範囲を設定することが必要になってくる。 そこで、本書やその元になった全国調査では、主に子どもたちが放課後に通う習い事やクラブ活動、週末・長期休みに参加するキャンプや旅行、お祭りなど地域での様々な行事、スポーツ観戦や芸術鑑賞、博物館や動物園といった社会教育施設でのアクティビティなどを「体験」として定めた。学校内での様々な活動から、友達や家族との日常の遊び、お手伝いなどの生活体験まで、そこに入りきらない様々な「体験」があることも、念のため記しておきたい。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)