青い空と海に包まれた白亜のホテル「リゾートホテル ヴィラ・サントリーニ」|憧れのリゾートホテル
■客室やレセプションは階段を巡って至る (※その他の写真は【関連画像】を参照) ここは本当に日本なのか? 【関連画像】青い空と海に包まれた白亜のホテル「リゾートホテル ヴィラ・サントリーニ」|憧れのリゾートホテル つい先ほどまで漁港の点在する土佐湾を横目に走っていた。美しいリアス海岸を持つ横浪半島と宇佐漁港をつなぐ宇佐大橋を渡り、木々に覆われた坂道を上ってゆく。 そうして、たどり着いた場所は白と青の色彩が目にも眩しい、息をのむほどに美しい世界だった。エーゲ海を思わせるホテルは、その名も「ヴィラ・サントリーニ」。 鍛鉄の小さなゲートを抜け、テラスから望む海が爽快だ。斜面に沿って複雑に並ぶ建物や通路、壁などは皆、輝くような白に塗られている。 扉や丸屋根、空と海の青とのコントラストが美しい。ホテル名の由来であるギリシャのサントリーニ島では、この青い丸屋根をブルードームと呼び、教会のシンボルとなっている。頂上に十字架が据えられているのは、その雰囲気を再現しているからだ。 細い階段を下り、小さな広場に出る。左の建物の青い扉を開けばそこがレセプションだ。鍵を受け取り、入り組んだ真っ白な階段を客室へとさらに下りていく。 あちらこちらに青い木の扉や窓が見え、テラスにテーブルと椅子が置かれ、街灯が立ち、鉢植えの樹木が潮風に揺れている。 なんだか楽しい。異国の旧市街の迷路のような小路を、少しドキドキしながら巡り歩いている気分だ。テラスでくつろぐ人影にも思わず笑顔を向けてしまう。 今回泊まる部屋は、斜面地に三層に造られたホテル本館の最下層、101号室だ。客室を結ぶ屋内廊下はなく、各室とも屋外に面した扉から入る。目の前には小ぶりのプールもある広々としたテラス。海はぐんと近い。 扉を開ければまたも感嘆。室内の天井はカーブし、ぽってりと白い。まさにサントリーニ島の洞窟ホテルそのものを彷彿とさせる。 ■●猫が遊ぶホテル 敷地内でたびたび見かける白黒の猫はホテルの人気者。名を“軍曹”という。ケガをしていた子猫時代に猫好きのオーナーが保護した。なつくでもなく逃げるでもなくホテル内外で悠然と過ごす姿がじつに絵になる。 ■ギリシャ・サントリーニ島のホテルや路地をお手本に なぜギリシャの島の風景をこの地に再現したのか? 美しい景観を楽しみながら、ふと浮かんだ素朴な疑問。オーナーである大井史子さんに聞いてみた。 もともとここには市営の国民宿舎があった。平成13年(2001)に民営になったが、築40年近い建物の宿泊者は減っていた。大井さんはここをリゾートにと考え、リサーチするなかでたどり着いたのがギリシャのサントリーニ島だった。 さらに調べてみると、火山噴火でできた島は三日月型をしていて、土佐湾が描く弧にそっくり。崖のあるホテル立地や景色も似ている。ホテル増築を機に、関係者とともに現地を訪ねた。 「50軒以上の宿を視察しました。街は美しいし、ワインと食を楽しむ人々の垣根は低い。素晴らしいホテルがいくつもありました」 青と白に特化したリゾートは日本にはない。“ただの崖”だった斜面にサントリーニ島の風景を忠実に再現していった。 「日本の職人は曲線には慣れていなくて、もっと雑な曲線にしたくて壁など自分で削ったりすることも。たまたま景色が似た島に惚れ込んだばかりに(笑)」 だがベースはあった。大井さんはフランス各地のワイン騎士団で叙任されている生粋のワイン愛好家。ヨーロッパには何度となく通い、ワインを楽しむ暮らしは身に染みついている。ギリシャの島で過ごすような休日を提供したいという思いは、その流れでもある。 オープンは平成17年(2005)8月。洞窟型客室は古代、交易船の船乗りたちが断崖の洞窟に住んでいたのに由来する。現地では客室に改装した“洞窟ホテル”も人気だ。 船長は見晴らしの良い高台に家を建てた。そのイメージから、国民宿舎跡の高台には新館も造った。今もギリシャに通う大井さん。自ら仕入れてくる調度品や食材などは、ゲストの滞在を彩る。 ■レストランの食事は仏グルメガイドで連続評価 ヴィラ・サントリーニには近年、食を目的に訪れるゲストも増えている。いわゆる美食家やワイン好きたちだ。どんな食体験ができるのか。心の高揚をなだめつつ、新館1階にあるモダンな造りのレストラン「logue」へ。 日も延びた春、外はまだ明るい。全面のガラス窓を通し、室戸岬のなだらかな山並みがおぼろに見える。 最初は小石の上に並ぶ前菜だ。チャンバラ貝に黒にんにくのソースを添えたタルトは貝のうま味が鮮烈に立ち上がる。「土佐あかうし」のライスコロッケ、「はちきん地鶏」のレバーペーストも良い。 2皿めは若手農家が育てる“しんちゃんトマト”のマリネに自家製リコッタチーズ。完全天日干しの塩が深みを添える。 次のカツオ藁焼きは添えられた3種のソースが秀逸だ。ごく軽く加熱したカキには、ギリシャワインを。エヴィア島で醸される白のスパイシーさが、ミルキーなカキによく合う。 平スズキのうろこ焼き、地ダコのラグーをまとったオレキエッテ(小さい耳の意のパスタ)と続く。 肉料理は土佐あかうし経産牛。土佐備長炭で少しずつ火入れしては休ませ、供するまで2時間をかける。合わせたギリシャの赤・クシノマヴロとともに味わう。 logueはフランスのグルメガイドである「ゴ・エ・ミヨ」日本版で2020年以来連続で高く評価されている。シェフの北村友和さんは33歳の若さ。創意の豊かさ、味わいの品の良さにうならされる。 ■夜空の星々や朝陽を眺め“朝から泡”の幸せな朝食 ゆっくりと時間をかけての夕食はヨーロッパスタイルともいえるのだろう。デザート後の小菓子とコーヒーを終えると、もはや22時を回っている。外に出れば天頂に北斗七星。周りにも星々が煌めき、視線を落とせば小さな灯台の光も暗い海に向けて点滅している。 「月もきれいですよ。正面に満月が昇るときは、手のひらに月を乗せた写真も撮れます」と大井さん。 戻った客室の前のテーブルでしばし、夜の海と空を眺めて過ごす。ギリシャワインなどのルームサービスもあるが、満腹を抱え、部屋の心地良さにやがて眠りについた。 サントリーニ島は夕陽の美しさが知られているが、この地で見えるのは朝陽だ。早朝低く射す光が海上に光の道をなし、白と青の世界を照らし出す。その荘厳さに言葉も出ない。都市での煩雑な日常など、一夜にして遠い彼方だ。 のんびり二度寝してからの朝食はレセプション奥の明るいレストラン「THIRA」でいただく卵料理とソーセージ、パンのアメリカンブレックファスト。ギリシャヨーグルトやはちみつも定番だ。ジュース各種のほかスパークリングワインの瓶も置かれている。 大井さんは「朝から泡! 私自身が大好きな休日の楽しみを、お客さまにも味わってほしくて」 ここはエーゲ海だ。いただきましょうとも。たっぷりの野菜、ギリシャのイチジクジャムやはちみつなども爽やかな泡によく合う。 海は近くともビーチがあるわけでもない。しかし国内外の多くの人がここを訪れる。作り上げた景観だけに頼らない、唯一無二であらんとする気概がそれを支えている。 リゾートホテル ヴィラ・サントリーニ 高知県土佐市宇佐町竜599-6 TEL/088-856-0007 料金/1泊2食付3万9600円~ 客室数/18室 チェックイン・アウト/15:00・11:00 アクセス/(電車)JR「高知駅」より車で約45分。(車)高知自動車道「土佐IC」より約15分 ■●立ち寄りスポット「とさのさと AGRI COLLETTO」 南国・高知の優品をお土産に南国・高知の伝統&新興の食品や菓子、調味料などのほか、評判のクラフトビールや日本酒もほぼ全種が揃う。食事処も併設し、敷地内には農産・海産物の直売所やスーパーもある。 高知県高知市北御座10-10 TEL/088-803-5015 営業時間/10:00~19:00(レストランは~20:00) 定休日/1月1日、2日 アクセス/(電車)JR「高知駅」より車で約5分。(車)「高知中央IC」より約5分 文/秋川ゆか 撮影/渡部健五