ソウルよりも平壌の方が近い韓国の島、その北方の海に大量の砲弾が撃ち込まれた 夜間は「中国の海」に?生活への影響は、住民の思いは【ルポ・韓国最前線の島】
韓国の空の玄関、仁川国際空港のある仁川の港から船で4時間の沖に、韓国最北西の白翎島(ペンニョンド)がある。ソウルよりも北朝鮮の首都平壌が近い。十数キロ先に望む北朝鮮から1月5日、大量の砲弾が北方の海上に撃ち込まれ、韓国軍も対抗して砲撃を実施した。南北の軍事的緊張が高まる中、最前線の住民の暮らしぶりはどのようなものなのか。どんな思いで日々を過ごしているのか。記者とフォトグラファーが1月17、18日、島を訪れた。(共同通信ソウル支局 富樫顕大) 【写真】1月5日、退避所に身を寄せる韓国・延坪島の住民ら
▽待避令 仁川港の旅客ターミナルを朝8時半に出発した。この航路は、強風などの悪天候で運航がたびたび中止になる。雪が降っていたが、幸い大きな遅延もなく白翎島に着いた。 島の中央部の集落にある自治会館へ取材に行ってみると、高齢女性らが集まっていた。人口約5千人の白翎島は、農業従事者が約3割を占める。女性らは夏は農業をしているが、2月の旧正月までは休みの時期なのだという。 5日の砲撃時、自治体は「北朝鮮の砲撃を受け、わが軍は今日海上砲撃を予定しています。住民の皆さまは万一の事態に留意してくだい」と、北朝鮮による攻撃などに備えて設置されている島内各地の地下の退避所への避難を指示した。自治会館で会った女性らのほとんどが避難したというが「私は足が悪いから、階段を下りないといけない退避所には行けず、不安だけど家にいた」と打ち明ける女性もいた。 ▽家で一人 女性らは「戦争が起きるのではないかと不安で最近はニュースも見られない」などと口をそろえた。「銃や砲撃の音が怖い。平和になり北と往来できるようになってほしい」と話す80代女性に、周囲がうなずいた。
北朝鮮は多様なミサイル発射実験を繰り返している。「ミサイルが撃ち込まれたら退避所でも大丈夫なのだろうか」とつぶやく女性もいた。 白翎島は、1950~53年の朝鮮戦争の際、すぐ先の対岸の北朝鮮から避難してきた住民らもいるという。韓国では「名節」である旧正月や旧盆の際に親戚一同が集まる。60代の女性は「私の姉の夫は北から1人で避難してきた。名節の時、心が痛いから普段は好きな酒も飲まず、家で一人でじっとしている」と話した。 ▽地元経済への影響 自治会館を出た後、近くのスーパーへ取材に行った。経営する呂東竜(ヨドンヨン)さん(55)は精肉を包装しながら取材に応じてくれた。島の大事な消費者である軍人が「警戒のためかあまり外出しない。売り上げが減った」とこぼした。冬は島外からの観光客がもともと少なくなる時期だが、緊張の影響でさらに減っているという。島内各地の飲食店は、観光オフシーズンであることもあり、シャッターを閉めている店もあった。