ソウルよりも平壌の方が近い韓国の島、その北方の海に大量の砲弾が撃ち込まれた 夜間は「中国の海」に?生活への影響は、住民の思いは【ルポ・韓国最前線の島】
漁師の朴唱馥(パクチャンボク)さん(56)は1月5日、砲撃があったため、漁に向かっていたところを引き返した。「生業に支障が出ている。軍事的緊張は話し合いで解決してほしい」と訴えた。 ▽南北対立と中国船 白翎島のすぐ北側は、韓国が海上境界線と位置付ける北方限界線(NLL)だ。朝鮮戦争の休戦協定が1953年に締結された際、海上境界線は確定されず、北朝鮮は1999年にNLL南方に独自の境界線を宣言した。仁川と白翎島を往復する船も、NLL直近を避け、南を大回りする航路を取る。白翎島民が漁をできる場所は限られている。 韓国の警備艇がNLL北側へ行けない隙を突く、中国漁船によるNLL周辺の不法操業がたびたび摘発される。朴さんは「ここは昼は『韓国の海』だが、われわれが漁を禁じられている夜間は『中国の海』になっている」とぼやく。朴さんは南北が協議し、広い範囲で漁ができるようになることを望んでいる。
▽失われた歯止め 韓国の尹錫悦政権は昨年11月、北朝鮮による偵察衛星打ち上げへの対抗措置として、2018年に文在寅前政権が北朝鮮と結んだ、境界周辺での軍事行為を禁じた合意の効力を一部停止した。北朝鮮は反発し、「合意に縛られない」と宣言した。緊張を緩和する歯止めが、事実上なくなった。 米韓軍は軍事境界線に近い京畿道抱川で、年末年始の定例的な機動砲撃訓練を例年より拡大して実施した。北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は、1月5日の砲撃について「新年早々、大規模な訓練をする大韓民国の軍事行動に対する当然の対応措置」だと主張した。北朝鮮は、白翎島東方の延坪島付近では5日から3日連続で砲撃をした。韓国軍は8日、2018年の合意で設けた海上緩衝区域は「もはや存在しない」として、区域で訓練を再開すると発表した。 ▽力対力 白翎島は緩衝区域内だった。精米所を経営する趙在欽(チョジェフム)さん(65)は区域設定がそもそも「過ちだった」とし、中高生も軍事訓練をするべきだと主張した。5日の砲撃で韓国側が北朝鮮側の2倍の約400発を砲撃したことを「良い対応だ」とたたえた。