【番記者の視点】浦和MF安居海渡「何で…?」 練習で本職でないCB起用、葛藤乗り越え今季1号
◆明治安田J1リーグ▽第10節 浦和2―1名古屋(28日・埼玉スタジアム) 【浦和担当・星野浩司】思いもよらなかった後方からのパスに、MF安居海渡は面食らった。「正直、前に出てくるとは思わなかった。ちょっと意外だった」。前半24分、自身を含めて5~6人が連動した前線プレスで相手のクリアミスを拾ったFWチアゴサンタナがゴールに背を向けながらトリッキーなパス。ゴール前で相手に当たったこぼれ球に素早く反応した安居が左足で冷静に流し込んだ。 今季10試合目で待望の初先発となった一戦で、いきなり初ゴール。「点を決められて、目に見える結果が出たのでよかった」と安どした。左インサイドハーフ(IH)に入り、自由に動きまわりながら攻撃を仕掛ける左FWの中島翔哉とのバランスを取りながら攻守で存在感。「もっと(ボールに)触りたかったし、関わりにいかないといけない」と反省を口にしたが、表情には一定の充実感がにじんだ。 流通経大卒2年目の昨季はリーグ戦31試合に出場。スコルジャ前監督から「彼のプレーをさらに発展させる」と本職のボランチでなくトップ下を任されるなど、チームの主軸を担った。だが、ヘグモ監督が就任した今季はチーム内での立場が激変した。 今季、主に左IHを担ったのは、高いパス技術とゲームメイクにたけた小泉佳穂、“ピッチ上の監督”と称されるベテランの岩尾憲。さらに、ドリブラーの大久保智明が入るなど、目に見える特長を持った選手が任されてきた。安居は攻撃、守備と弱点なくプレーできる万能型だが「めちゃめちゃ何かが秀でてるわけじゃない。自分の中でもそういう役回りだなとは思ってた」。開幕から6戦連続でベンチ外と苦境が続いた。 練習や練習試合では、本職ではないセンターバック(CB)でのプレーを告げられ「最初は本当に『何で…?』っていう気持ちだった」。理想とはかけ離れたポジションに葛藤を抱えながら、自身と向き合う日々が続いた。 支えになった言葉が2つある。「安居は良さを分かってもらうのに時間かかる」。ベンチメンバーに入れず悩んでいた時期の練習前、浦和ユースの平川忠亮監督と塩田仁史GKコーチとの会話の一幕だった。ほとんど試合に絡めなかったプロ1年目、チームの中心を担った2年目にトップチームコーチとして指導を受けた2人からの言葉に「折れないで続けること大事だなっていうのを改めて感じた」。 もう1つは、父・博さんとのたわいもない会話。練習でセンターバックをやっていることを話すと、「それもいいんじゃないか。そこ(ボランチ)だけに限らず、見えてくる景色が違うから」と言われた。「やって損はない。どこでもやれる選手って強いなって思うし、どこでもチャンスがあるなら出たい」。マインドが変わった。 慣れ親しんだ2列目、3列目よりさらに後方のCBから見る景色は多くの気づきがあった。例えば、縦パスの入れ方。「ショルツもバンバン入れるけど、その体の向きからそっちに出すとかもあるので、参考になる」。パスの出し手の視野や心理を体感したことで、自身が受け手になった時のプレーにつながる。「自分もそのタイミングで入ってくればパスを出してくれるんだなという考えにもなる。やってよかった」とポジティブな時間に捉えた。 ウィングやサイドバックとの連係、前線での得点力が求められるIH。分からない部分は岩尾や小泉に助言をもらいながら、理解度を高めてきた。名古屋に勝利後、ヘグモ監督から「海渡がインサイドハーフで出場して点を取ることができて、非常によかった」と称賛された。安居は「徐々に自分の良さも出てきたのが監督に目に留まったのかなと思う。続けてきてよかった」。もがき苦しんだ時期を経て、背番号25が輝きを取り戻した。
報知新聞社