「今までに見たことがない!」チューリップが咲いた…研究者も驚愕の理由とは
1.葉から花の器官への転換は容易ではない
ご質問にも書かれていますが、花を構成する器官の間の転換、例えば、雄しべから花弁への転換や、花の器官の葉状化は頻繁に見られる現象で、ゲーテの説や高校の生物学でも教えられるABCモデルのもとになりました。 ちなみに、ABCモデルとは、被子植物の花形成を説明するモデルのことをいいます。このモデルでは、花を構成する4種類の器官(萼、花弁、雄しべ、雌しべ)への分化が3種類の遺伝子A・B・Cの発現の組み合わせで調節されると説明しています。 このABCモデルが提唱された後、シロイヌナズナの実験で、A機能、B機能、C機能に対応する3種類の遺伝子をすべて欠損させると、花の全器官が葉に転換することが明快に示されました。これは、花を構成する諸器官は葉が変形したものであることを、極めて雄弁に支持する画期的な実験でした。 しかし、この逆の実験、例えば「葉でA機能とB機能に対応する遺伝子を発現させることで、葉を花弁化する」というような実験はなかなかうまくいきませんでした。 つまり、花弁でA機能とB機能の遺伝子の働きが損なわれれば葉への転換が起こりますが、葉でA機能とB機能の遺伝子を働かせても花弁への転換は起こらないことがわかったのです。このことから、花においては、葉では働いていないA機能、B機能、C機能とは別の遺伝子が存在し、A機能、B機能、C機能の遺伝子の働きを助けていることが予想されました。 そして、SEPALLATA(SEP)と名付けられた遺伝子がそのような遺伝子に当たることが示されたのです。実際、葉において、AP1(A機能)、AP3とPI(B機能)、SEP2とSEP3の合計5種類の遺伝子を働かせると、葉は完全な花弁に転換することが示されています。また、それぞれの遺伝子から転写・翻訳されてできるタンパク質が複合体を形成し、この複合、体が花弁の形成に関わる遺伝子の転写を調節すると考えられます。 このように、葉を花弁化することは実験的には可能ですが、容易ではありません。葉の細胞で、特定の数種類の遺伝子が間違って発現してしまい、正しい複合体がつくられることはかなり起こりにくいからです。ご質問のチューリップの例は、極めて稀なものではなく、比較的、頻繁に見つかるもののようなので、葉の花被片化ではないように思います。