そのページ数、連続16ページ! ソアラ広告に見る、トヨタのソアラに賭けた期待【時代の名車探訪 No.1-9 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・広告編】
「時代の名車探訪」ソアラの第9回目は、ソアラ本体の話ではなく、広告のお話。 ネット時代になってメディア広告も様変わり。その出稿料が、テレビやラジオ、雑誌のそれをネットがうわ回るようになって長い。 いまや衰退の一途をたどる紙媒体広告。それが元気だったことを象徴する広告のお話をしていこう。 【他の写真を見る】章立て構成の膨大な初代ソアラ広告 TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/モーターファン・アーカイブ 見よ! 膨大なページ数の初代ソアラ広告を! 雑誌にテレビにラジオに新聞・・・よくも悪くも、民間メディアは広告出稿がなければ成立しない。 広告が減れば利潤は下がるし増えれば上がる。 われわれが属する自動車メディア界もその例に漏れず、残念ながら、広告量に依存する体質はいまも昔も同じで、何とも脆弱なものだ。 自動車雑誌が元気だったのは1990年代半ばあたりまで。この頃私は学生で、雑誌の作り手ではなく読者の側だったが、私が自動車の本を手にし始めた1987年あたりから90年代半ばはそのまま自動車雑誌界もピークだったように思う。 さて、お話の舞台はそのピークより少し前の初代ソアラの時代。 ソアラも発表前の試作「EX-8」の段階からティザーキャンペーンを思わせるくらい、モーターファン誌でもチラ見せや予告記事を展開していたが、1981年2月末の正式発表後の「ソアラ」誌面初登場は「モーターファン1981(昭和55)年5月号」である。 昔の同誌を見ると、広告の数はいまとは比べものにならないほど多い。 自動車メーカーに限らず、タイヤ、ホイール、ステレオ、カーエアコン、全国の個人中古車店・・・ユーザー向けばかりではない、整備業界や、自動車メーカーの人向けでしかないエンジンパーツ部品の広告まであり、この同誌5月号の広告出稿数を見るとそのスポンサー数76! 実際には1カ所で複数の広告を出しているので広告数としてはもうちょい多いが、それにしてもいまの目で見るとまるで段違いの数の広告出稿数であることがわかる。 異次元なのはソアラの広告だ。 1台の新型車広告は通常、カラーで1ページ、あるいは見開き2ページが常識のところ、何とこのソアラ広告は総数16ページ! ときた。 この頃のモーターファンは左開き(「左開き」とは、表紙を正面に、右側から左側に向けてページを開く本の体裁の呼び名。したがって文字は横書きとなる。表紙を正面にしたときに右側が開く構造になっているから、個人的には「左綴じ・右開き」というべきだと思う)なので、広告は右ページスタート。以降、2ページごとの見開き広告が7つ続き、最後左ページで締めとなる。 見開きは章立て第1章から第7章まで続いている・・・要するにモーターファン本誌の中で16ページ仕立ての広告主体の本がもうひとつ綴じられた広告カタログということができるのだ。それ以外に、表4(表紙を正面にして本ごと裏返しにしたときに見る広告面。ついでにいうと、表紙をめくって最初に目にする広告が「表2」、表4をめくって現れる広告面が「表3」だ。表2、表3は隣り合うページと見開きになる場合もある。したがって、表1の見開き広告、表4の見開き広告というのは事実上存在しない)もあるから、このモーターファン1981年5月号に限っては、トヨタ自動車様は17ページ分もの出稿をしてくださったことになる。 そしてページの多い少ないはあれど、トヨタが「モーターファン」だけに広告を出していたはずはなく、当時の「カーグラフィック」「月刊自家用車」などにも同様の広告出稿をしていたに違いない。 このソアラの広告出稿料は、当時のトヨタ史上最高額だったという話もある。いったいモーターファン誌にいくらぶんだったのか? そしてトヨタはソアラ関連の広告に、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌・・・トータルいくらかけたのか? タイムマシンがあったら当時の三栄の広告部&モーターファン編集部、トヨタ自動車に伺ってみたいものだ。 ・・・・・・・・・正月早々、生々しい話をしてゴメン。 広告額の話はともかく、今回この話を書くにあたり、この広告に片っぱしから目を通して見た。 必見! 第1章から第7章まで まず暗闇で顔を出す白いソアラの上下で「未体験ゾーンへ。」「SUPER GRAN TURISUMO」のフレーズによる片ページ広告からスタート。「未体験ゾーン」はそれまでとは異質のコンセプトを持つソアラそのものを指しているのだろうが、この記事を書こうとしているいまの私には、このページそのものが異例の連続16ページ広告という「未体験ゾーン」の入口だ。 めくって第1章は、ソアラが単なる「GT」ではない、「スーパー・グラン・ツーリスモ」に位置付ける理由を述べる。 第2章では新しい6気筒ツインカム170psをはじめとする繊細なメカニズムをアピール。 170psを受け止めるシャシーの速さを第3章で語り・・・ 第4章では4輪ベンチレーテッドディスクブレーキといまのABSに相当する、後輪2輪のESCといった、止まる性能を訴求する。 第5章では風との対話で得た驚異のCd値0.36による直進性を「何の不思議もない必然の結果」とさりげなく空力技術をじまん。 メーターの多さが必ずしも高性能の証ではないと、必要な情報だけを新しくビジュアリティに見せるエレクトロニック・ディスプレイ・メーターの解釈を披露を第6章で。 最終第7章では、画期的なエア式ランバーサポート付バケットシートや心地よいつけ心地の電気式テンションリデューサー付きELRシートベルト、マイコン式オートエアコンやクルーズコンピューターなど、新時代のグランツーリスモにふさわしいインテリア装備の種々について語りつくしている。 最後、もういちど「未体験ゾーンへ。」で締める! すばらしいのは、全章で記される語りがなかなか読ませる文体であることだ。しょせんは広告であることを差っ引いたとしても、自動車とは何か、どういったものであるべきなのかを理解させる表現は、既存の自動車評論家、ジャーナリストの文章よりよほどためになるのではないか。 書いたのは電通の人なのかどうか知らないが、広告の文章を書かせるだけにとどめるにはもったいないと思うほどだ。 ・・・・・・・・・。 自動車雑誌も自動車業界もまだまだ元気だった頃の初代ソアラの広告・・・、いや、広告の名を借りたトヨタ制作のソアラ物語をお見せした。 ソアラが自動車史の1ページを飾るエポックメーキングカーであるのと同じく、初代ソアラ広告もまた自動車広告史に残すべき広告のひとつだと思う。 次回はソアラ解説最終回です。 【撮影車スペック】 トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック) ●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)
山口 尚志
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