火星での生命探査にパラダイムシフトを起こすか 米大学院生が提案する斬新なミッション
米国テキサス州で2024年3月11日から15日まで開催された第55回月惑星科学会議(LPSC)において、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の大学院生が火星での斬新な生命探査ミッションを提案しました。現在火星で運用されているアメリカ航空宇宙局(NASA)の探査車「Curiosity(キュリオシティ)」や「Perseverance(パーシビアランス)」よりも、コストを抑えつつ効率的に生命の探査を行なえるようです。 欧州の火星探査機マーズ・エクスプレスが撮影した3億km先の地球と月
■10年以上のキャリアをもつ大学院生
Alex Longo氏は修士課程に在籍中の大学院生でありながら、パーシビアランスの着陸地を選定する「Mars2020 Landing Site」の選考委員を13歳から5年間(2013年~2018年)務めるなど、すでに10年以上も宇宙探査に携わってきたキャリアをもつ人物です。Longo氏は3月14日に開催されたポスターセッションのなかで、従来の火星探査車による生命探査の非効率性を指摘し、より広範なエリアを低コストで実現できる火星生命探査ミッション「MARSE(Mars Astrobiology, Resource, and Science Explorers)」を提案しています。 Longo氏はまず、キュリオシティやパーシビアランスといった探査車やオービター(火星を周回する探査機)による火星探査の貢献を精査しました。これらの探査機による観測の結果、火星は地質学的な多様性をもち合わせており、複数のエリアがノアキス紀(約37億年~約41億年前)からヘスペリア紀(約32億年~約37億年前)にかけてハビタブル(生命居住可能)な条件を満たしていた可能性があることを発見しています。キュリオシティはゲール・クレーターにかつて存在した湖について、炭素、酸素、窒素、リン、硫黄など生命に不可欠な要素を含む水質だったことを示す証拠を発見しています。また、パーシビアランスはジェゼロ・クレーターで火山岩を発見した他に、酸素生成装置を使って大気中の二酸化炭素から酸素を生成する実験に成功しています。 さらに、オービターや探査車からの赤外線分光観測により、水分を含む鉱物が数百種類も同定されています。しかしオービターからの観測だけでは限界があり、探査車が現地で発見できることのすべてをオービターの観測装置だけで事前に検出しつくすことはできないため、探査車による生命探査が不可欠だとLongo氏は指摘しています。 こうした探査車による生命探査の意義を認める一方で、Longo氏はキュリオシティに約25億米ドル、パーシビアランスに約27億米ドルもの莫大なコストがかかる点を懸念しています。加えて、1つの着陸地点につき1台の探査車で探査を行なうミッションでは10年間でせいぜい1~2台しか運用できず、キュリオシティの着陸(2012年8月)からパーシビアランスの着陸(2021年2月)まで実際に約8年かかったことから、タイムスパンの長さが問題視されるといいます。