「核のまち」を受け入れたら、今後どうなる? 一歩踏み出した山口県上関町 先行する青森県に見る「なくなれば貧しかった過去に逆戻り」のジレンマ
六ケ所村ではかつて、再処理事業への賛否が村を二分することもあった。高齢化や転出により、今では村に残る反対派はわずかだ。30年以上、反対活動を続けている村民の女性は話す。「村には海も山も森もある。原子力に頼らなくても産業は生み出せるはずだ」 彼女の意見に耳を傾ける村民は今では数人ほどで、多くは村での暮らしを諦めて去っていった。女性はつぶやく。「いつまでも原子力が安全とは限らないのに、村にはもはやイエスマンだらけ。私はこの村の自然が好きで、守りたいだけなのに」 核と引き換えに豊かさを選んだ六ケ所村。以前を知る別の村民は打ち明ける。「事業がなくなれば、貧しかった過去に逆戻りだ」 ▽入り続ける交付金、「ずっと未操業が一番」の本音も 六ケ所村に産業をもたらした原子力政策に反発できないジレンマもある。村内には電力各社の出資で再処理を担う日本原燃の社員や関連会社の関係者も多く、表だって事業に反対する声はわずかだ。
再処理施設の立地を受け入れた1985年度から2021年度までの工事発注額は、関連事業を含めると約5兆円。このうち9000億円超を県内企業が受注した。日本原燃は本社を六ケ所村に置き、青森県出身者が社員の6割以上を占める。社長も村内に住む。多額の固定資産税が地元自治体に納められるなど、稼働せずとも村や青森県に大きな恩恵をもたらしてきた。県関係者は言い切る。「村の財政が日本原燃に支えられているのは間違いない」。村幹部は、再処理工場の稼働による「さらなるうまみ」に期待する。「工場が動けば税収が20億円増える」のだという。 中間貯蔵施設に使用済み核燃料が搬入されなくても、再処理工場が稼働しなくても、手を挙げた地元自治体には国から交付金が入る。肝心の燃料がない以上、核のリスクにさらされることもない。住民からはこんな本音が聞こえてくる。「ずっと未操業が一番だ」 原子力の是非を巡って住民が分裂し、原子力と共に歩む道を選んだ住民だけが残る構図。先を行く青森のこうした現状を知ってなお手を挙げた山口県上関町に、地方が直面する窮状と、原子力行政の変わらぬ構造が透けて見える。