病身の猫にまだ救われている… 闘病中の愛猫のいつか来るその瞬間と飼い主の揺れ動く感情を描いた猫エッセイ【書評】
大事なペットが死ぬところなんて、想像もしたくないだろう。だが、いつかは必ず訪れる。『ポッケの旅支度』(イシデ電/KADOKAWA)は、愛猫が病気によって死に向かっていく過程と、それを見届ける飼い主の葛藤を丁寧に描いた漫画だ。 【漫画】本編を読む
著者であり飼い主のイシデ電さんは、2匹のネコを飼っている。オス猫がポッケで、メス猫がピップだ。2匹は同じお母さんから産まれたきょうだい猫であり、もうすぐ15歳になる。窓から入ってきた野良猫の2匹を引き取ったのが、一緒に暮らし始めたきっかけだ。
最初、イシデ電さんは2匹をドライに見ていた。子どもの頃から飼っていた“こぜ”という最愛の猫を亡くしており、やすやすと鞍替えしないと決めていたからだ。しかし、かわいい子猫を前に1カ月も経てば、その決心はどこへやら。漫画家の志村貴子さんに譲る予定を変えて、飼うことにしたのだった。
イシデ電さんの日常生活とともに、ポッケとピップの成長も描かれる。イシデ電さんと2匹の猫が、一緒にいて当然と言っていいほど深い絆で結ばれていることを象徴しているかのようだ。夜、同じ布団で寝るシーンがほほえましい。お互いになくてはならない存在で、イシデ電さんが2匹に深い愛情を注いでいるのが分かる。
ある日、ポッケの様子に異変が起こる。歩き方が変になり、痩せ始めてしまうのだ。診てもらうために、一旦ポッケを病院に預ける。帰ってから部屋で1人たたずむイシデ電さんの姿が虚無そのもので、読み手の心もざわざわする。ポッケの年齢を考えたら、寿命が近いと分かっているからだ。
ポッケは慢性腎不全と診断された。そこから、ポッケの闘病生活が始まる。ポッケのウンチの状態など病状の進行がひとつひとつ描写されていて、イシデ電さんがどんな変化だろうと見逃すまいとしていたのが伝わってくる。
ポッケが、もうすぐ死んでしまうかもしれない。いつの間にか読み手は、不安や悲しみを感じるイシデ電さんに深く感情移入しているのだ。ポッケたちとの生活を丁寧に描いているからこそ、そこには体温を感じさせるような生活感とリアリティが生まれている。 本作は弱っていくポッケを看病する様子だけではなく、イシデ電さんの感情の揺れ動きにも焦点が当たっている。もしポッケが死んでしまったら、受け止められるんだろうか。イシデ電さんの苦しくてやるせない心情が伝わってくる。同じようにペットが病気になった経験がある人なら、きっと痛いほど共感できるだろう。