『ラ・メゾン 小説家と娼婦』アニッサ・ボンヌフォン監督×アナ・ジラルド 監督がインティマシー・コーディネーターを兼ねた理由とは【Director’s Interview Vol.380】
2019年のフランスで、とある小説が発表と同時に賛否両論を巻き起こした。その小説「La Maison」は、2年もの間身分を隠し、娼婦として活動した女性作家エマ・ベッケルの自伝的内容だ。その大胆すぎる取材方法にフェミニストから激しく批判も浴びるも、同時にアンダーグラウンドで生きる女性たちのリアルな姿が大きな共感を呼び、世界16ヵ国で大ベストセラーとなった。 完全映画化に向けて、主人公に抜擢されたのは小栗康平監督作『FOUJITA』(15)のユキ役や、セドリック・クラピッシュ監督『パリのどこかで、あなたと』(19)等で知られるアナ・ジラルド。監督には原作者からの強い希望で『ワンダーボーイ』(19)で注目を浴びる気鋭の女性監督アニッサ・ボンヌフォンが起用され、圧倒的なリアリティを持って衝撃の実話を映画化することに成功した。この度、アナとアニッサの二人が揃って来日。本作の制作について話を伺った。 『ラ・メゾン 小説家と娼婦』あらすじ フランスからベルリンに移り住んだ27才の小説家エマ(アナ・ジラルド)は、作家としての好奇心と野心から娼婦たちの裏側に惹かれてゆく。そして、大胆にも彼女たちの実情を理解するために、有名な高級娼館“ラ・メゾン”に娼婦として潜入する。危険と隣り合わせの女性たちの日常、そして孤独や恋愛の尽きない悩み...。そこでの日々は、エマにとって新たな発見に溢れていた。そして2週間のつもりが、いつしか2年もの月日が流れてゆく。果たして、エマがその先に見るものとはー。
アナに気に入ってもらえるか不安だった
Q:あらすじや予告からはセンセーショナルな内容を想起しますが、実際の映画は一人の人間が葛藤する普遍的な物語だと感じました。完成した作品をご覧になった感想を教えてください。 ボンヌフォン:ありがとうございます。映画が完成したとき、アナに気に入ってもらえるかとても不安でした。今回彼女は身体的な準備のみならず、精神的なものも含め全身全霊で挑んでくれました。複雑な女性像を体現しなければならず、ヌードシーンも多い。彼女が投資したものに見合うものを、私が作った作品の中に見出してくれるだろうか。そこが心配でした。 今回はストーリーの組み立てが少々複雑なので、円滑に語るのが難しく、演出的にちょっと不器用な面もあったと思います。でもそれも今となっては、愛おしく思えるようになりました(笑)。また、もし私が自分で監督していなかったら、「このシーンは凄い!」とつい言ってしまうくらい、見事なシーンもあったと思います(笑)。 Q:それは具体的にどのシーンでしょうか。 ボンヌフォン:とりわけ好きなのは、エマが好きな彼に会うために公園に行き、建物に入って壁画の前でセックスをするシーンです。また、ネタバレになるので詳細は控えますが、ラストシーンも大好きですね。ラストに関してはプロデューサーと戦って撮ることの出来た、思い入れのあるシーンなんです。不器用な男性客にプレイを教えるシーンも愛おしいですし、エマと先輩のSM女王がやり取りをするシーンもとても好きです。SM女王の「私は演技をしているんだ、これは演技なんだ」と語る内容に惹かれますね。 Q:「ラ・メゾン」にはいろんなタイプの女性がいましたね。 ボンヌフォン:そうですね。一言にフェミニティと言っても、それは決して一枚岩ではない。「ラ・メゾン」に集まっている女性たちの人生も様々なんです。 ジラルド:私は完成した作品を客観的には観ることが出来ませんでした。私のエージェントと監督と一緒に試写を観たのですが、友人でもある前オランダ大統領を含めた500人もの観客が入っていて、かなり緊張したのを覚えています。 ボンヌフォン:当初は200席くらいの小さな映画館の予定でしたが、試写の申し込みがあまりにも多く500人規模のところに変更したんです。それでも立ち見が出るほどでした。多くの人が好奇心で観に来ているようでしたね。 フランス人女性は性的にとても自由で、それがフランス社会で普通に受け入れられているという印象があるかもしれませんが、全然そんなことは無いんです。もちろん一部では女性のセクシャリティが受け入れられている部分はありますが、娼婦が売春をすることは、フランス社会において受け入れられることではない。この映画はそういった議論を呼ぶようなテーマが含まれていますし、観客は好奇心で観に来たとはいえ、実際には映画を観ることへの逡巡はあったのではないかと思います。
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