日本では自民党総裁選。今こそ観たい『JFK』。アメリカでは大統領選も。心あるリーダーの誕生を祈らずにいられない
1989年に漫画家デビュー、その後、膠原病と闘いながら、作家・歌手・画家としても活動しているさかもと未明さんは、子どもの頃から大の映画好き。古今東西のさまざまな作品について、愛をこめて語りつくします!(写真・イラスト◎筆者) 【イラスト】恋愛模様も… * * * * * * * ◆巨匠オリバー・ストーンが映画化した硬派の社会派ドラマ 「抗議すべき時にしないのは卑怯者だ」 ドキッとする言葉で始まるこの長編映画は、あのJohn Fitzgerald KennedyことJFKの暗殺を「陰謀」だとして法廷で争った唯一の検事、ジム・ギャリソンの目を通してケネディ暗殺をひもとく。彼の著書・『JFKケネディ暗殺犯を追え』などをもとに、巨匠オリバー・ストーンが映画化した硬派の社会派ドラマである。 今度日本でも総裁選があり、次期総理が決まる。しかし日本は民意の反映より自民党内の票の獲得が結果を産むため、国民はあまり熱くなりえない部分がある。一方、アメリカがこの秋に控える大統領選の盛り上がりは半端ない。トランプ氏は2回も狙撃されているし、ウクライナやパレスチナでおきた戦争の行方も、アメリカ大統領次第で変わる。今回は世界中が注目しているといっていいだろう。 とはいえ、日本でも安倍元総理が暗殺された。アメリカでも日本でも、国を担うという仕事が「命がけ」なのは間違いない。その「重さ」がいやというほどわかるのがこの『JFK』なのだ。 堅いテーマだが一気見してしまうのは、編集の巧みさと、主役の検事を演じたケヴィン・コスナーの恰好良さが半端ないからだろう。
◆アメリカは自由と正義と民主主義の国ではなかったの? それにしても改めて、自分がいかに現代史を知らないかを痛感させられた。私はケネディがダラスで暗殺されたこと、妻がジャクリーン・ケネディなこと、マリリン・モンローがケネディと親しかったことなどは知っていたが、容疑者とされていたオズワルドが逮捕後すぐに射殺されたことも、ジョンの弟、ロバート・ケネディが1968年に暗殺されていたことも、ケネディ暗殺シーンの白黒フィルムが、長いことFBIに押収されたまま公開されなかったことや、ケネディの解剖がきちんと行われなかったことも、知らなかった。 映画を見進めていくと、私たちは心の中で叫ばずにいられない。「アメリカは自由と正義と民主主義の国ではなかったの?」と。 実際、アメリカの歴史をふりかえれば、原住民が住んでいた土地に、アフリカから沢山の黒人を拉致してきて奴隷とし、同性愛者に対して猛烈な差別をしたり、裁判もない赤狩りが行われたり、果ては核兵器を開発し、それを日本に使用したり…と、野蛮な行為の連続である。だからこそ「正義と自由と公正なる民主主義の国」というイメージを広げる必要があったのかもしれない。事実多くのハリウッド映画は国策映画的な側面もあるといわれる。しかしハリウッドでは労働組合運動が盛んだし、『JFK』を作る自由もあったのだ。闇も深いが、公正なもう一つの道もある、ダブルスタンダードの国なのだろう。 さて、私は一度、ハリウッドの一角にある家庭にホームステイした経験があるが、毎週のように奥方は民主党の集会に行き、私に対しても、「なぜ民主党政権でなくてはいけないか」を熱心に説明した。私は理念だけなら民主党にひかれるし、一般的に「持てる者は共和党、庶民は民主党」なのかなと理解したつもりでいた。けれどトランプが大統領だった時に訪ねたニューヨークで、タクシー運転手から「共和党政権の方が景気はいいし、仕事があるからましだ」と言われ、事は簡単ではないと感じた。同時にアメリカ国民が政治に熱心で、自分の支持政党を明言する事には感心した。これは日本ではまずあり得ない。 日本では自分の意見は言わない方が安全だと考えられている。匿名ならば相手を死に追やりそうなひどい批判も出てくるが、自分の名前が明らかになる場面では沈黙が常。一方欧米では、「主張しなければ自分の権利は踏みにじられる」と考える人も多い。実際そうしなければ、多くの黒人や移民は、白人の子女と共に学ぶ事もできなかった。その道を開いたのはケネディだ。
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