人手不足が深刻な日本経済でこれから起こること…生産性が低い企業は市場から退出を迫られる
この国にはとにかく人が足りない……個人と企業はどう生きるか、人口減少経済は一体どこへ向かうのか。なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、高齢者も女性もみんな働く時代に…… 【写真】日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態 話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。 (*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)
予想6 生産性が低い企業が市場から退出を迫られ、合従連衡が活発化する
デジタル技術などを活用した資本導入の動きは今後広がっていくとみられる。しかし、すべての企業が大規模な資本を活用できるだけの経営的体力があるわけではない。 近年ではクラウドサービスなど安価なサービスが浸透してきているとはいえ、中小企業の中には人手も確保できず、かつ資本導入も進められない深刻な状況に陥っている企業も少なくない。 今後の経済を展望したとき、企業によってその展開は異なるものになると予想される。法人企業統計は資本金1000万円以上の企業を対象とした調査であるため、中小企業の利益水準の動向まではわからない。また、同統計は株式会社など主に営利法人を対象としたものであるため、公益法人なども対象に入っていない。地域の飲食店や小売店、診療所から介護施設にいたるまで、企業がどれだけの利益を計上しており、経営者がどれだけの報酬を得ているのかは統計的にはブラックボックスである。おそらく、事業に成功して多額の報酬を得ている経営者もいるとはみられるが、経営的に余力がない事業者も多く存在していることだろう。 今後、賃金水準が高騰すれば、こうした利益水準が低く、生産性に劣る企業については市場からの退出圧力が強まることになると予想することができる。 昨今では企業経営者の高齢化に伴い、事業の後継者不足の問題も深刻化している。今後は規模の経済性を活かせない企業や、人材確保の観点から事業継続が困難になっている企業について、人手不足倒産の発生や優れた企業によるM&Aが活発化することなどによって、少数の事業者に集約化されていく展開になるだろう。利益水準が高い企業のシェアが拡大していけば、生き残った少数の企業において資本導入が活発化し、経済全体の生産性は高まっていく可能性が高い。 倒産件数の推移を見ると、足元ではコロナ禍におけるゼロゼロ融資などの影響もあり増加している様子が見てとれるものの、倒産が多発するような状況とまでになっているわけではない(図表3-4)。 しかし、これからの人口減少時代において、現在存在している企業のすべてが横並びで生き残っていくという未来像を展望することは不可能である。今後は、業界の垣根を超えた企業間の幅広い連携も広がっていくだろう。 そして、市場メカニズムは企業の集約化を促し、少数の企業が生産性高く事業を経営するように強いる。その過程においては、優勝劣敗の自由競争市場の原則のもと、時代の流れについていけない企業の多くは吸収されたり、消失したりする動きが活発化することになるだろう。 つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)