「死刑に賛成でも反対でも、執行を実際に見たら失望する」アメリカの元刑務官が語る制度の実態 今改めて考えたい「死刑」
建物はれんが造りで、中にある刑場は約60年前につくられたものだ。絞首刑と薬物注射の両方の設備が残されていた。 建物内部には、執行を12~24時間後に控えた死刑囚が過ごす房があった。房は、刑務所の単独房と同様の作りで、ベッドやトイレ、簡易的な机が備え付けられている。 執行までの間、職員2人が房の外に待機し、死刑囚をつきっきりで見守るという。所長のロブ・ジャクソンさんによると「死刑囚の感情や精神状態を安定させるためにいる職員なので、慎重に選ばれている。必ずしも刑務官ではない」。 房を開けるには5段階のロックを解除しなければならず、見張り役の職員には開けられないようなっている。死刑囚はこの房で最後の食事をする。宗教を通じて死刑囚や受刑者に道徳的な教えを施し、精神的な支えとなる教誨師とも面会できる。 房と同じフロアに絞首台がある部屋がある。絞首台に立ち、台が外れれば落ちる仕組みだ。死刑囚の“最期の言葉”が立会人に聞こえるように、マイクも設置されていた。階下には、宙づりになった死刑囚の体を下ろして収容するガラス張りの部屋があり、その向かいに立会人のためのいすが並ぶ。ガラス張りの部屋には薬物注射のための台も置かれていた。注射での執行の際はここで行われる。絞首刑の場合は、薬物注射の台を取り除いていたという。
▽「重要なのは法の範囲内で実行されること」 刑場内部を見学していた際、モーガンさんはおもむろにこんな発言をした。 「死刑執行を見ると、賛成派も反対派も失望することになる」 どういう意味かすぐには理解できず、改めて問いかけるとこんな答えが返ってきた。 「ワシントン州では、執行はプロフェッショナルに行われていた。死刑囚が可能な限り尊厳を持って運命を迎えるために多大な努力が払われた。不必要な苦痛を避けて、正しく執行を行えば、死刑囚はただ死ぬだけだ」 つまり、死刑反対派は執行が行われたことに失望し、賛成派は死刑囚がただ静かに死んでいくのを見て失望するのだそうだ。 モーガンさんはどういう思いで立ち会っていたのか。執行に立ち会う際、最も大切にしていた思いを最後に尋ねた。 「最も重要なことは、法の範囲内で実行されることだ。そして、死刑囚が死を受け入れるのであれば、尊厳を持って死と向き合う機会を与えること。それと同じくらい重要だったのは、彼らを人間として尊重し、死刑執行に伴う社会的圧力や汚名に耐えられるような強い人格を持ったスタッフを死刑執行の役割に任命することだった。死刑囚は非常に重い罪を犯した人たちだ。しかし、彼らは死に直面している一人の人間でもあるのだ」