上司と部下はどのように信頼関係を築けばいいのか? 「この人を喜ばしてやろう」…落語家・古今亭菊之丞から学ぶ仕事のヒント
江戸時代から続く歴史があり、人間力や教養が高まるとビジネスリーダーから好まれている落語。その特性とビジネススキルを掛け合わせ、落語を聴くようにすんなり理解できる「落語家に学ぶ仕事のヒント」。 古今亭菊之丞さんに、「次世代の育成と指導」をテーマにお話を伺いました。 コンプライアンスやハラスメントへの目が厳しくなる今、上司と部下はどのように信頼関係を築けばいいのでしょうか。そのヒントを求めて取材を進めていった先にあったのは、とてもシンプルな答えでした。
【古今亭菊之丞 KIKUNOJOKOKONTEI】 1972年生まれ。中学生のとき、落語好きの先生に影響され、落語に興味を持つ。 1991年、二代目古今亭圓菊に入門。2003年、真打昇進。2020年、落語協会理事に就任。 落語以外にも声優や俳優として活躍中。NHK大河ドラマ「いだてん」では俳優として出演したほか、ビートたけしなど俳優陣に落語監修や江戸ことばの指導を行う。弟子は古今亭雛菊。
「ちゃんと見ているよ」というアメ
「修業のやり方は時代に合わせていく必要がある」と言いましたけど、最近では落語協会でもコンプライアンスやパワハラの講習会をやっています。 今までは笑い話として「そのうち弟子が師匠を訴える時代が来る」なんて言っていましたが、ついに本当に弟子から師匠へのパワハラ訴訟も起きてしまいました。 伝統を重んずる業界ですけど、それは芸の上の話。中のことは変わっていかなきゃいけないんでしょうね。老舗の料理屋さんだって、今の人の口に合うように味付けを工夫していたりする。同じように落語家も、その時々で変わっていかないと。
時代の流れがものすごい速いのでなかなか追いつけないですけど、その苦労はビジネスの世界も同じなのだと思います。昔から続いているものだけでは生き残っていけませんからね。 とはいえ、弟子への指導は優しいだけではだめですよね。アメとムチは必要だと思います。 優しさと厳しさのバランスは、立川談志という人がうまいですよ。お客さまの前では弟子をけなすけど、楽屋で一対一になると「俺はお前のこと買ってんだ」って褒めるんです。だから「師匠は自分のことを分かってくれてる」って厳しさも受け入れられるわけですね。 でもまぁ、落語家の多くは自分の弟子をあまり褒めません。私も師匠から褒められたことはほとんどないです。亡くなる間際に「良くなった」って言われたぐらいで。「弱気になっちゃったんだな」ってかえって悲しかったですけどね。 私もまた、弟子の雛菊を褒めることはほぼありません。 じゃあ何がアメなのか、ですか?