石破首相、習氏と「かみ合った意見交換」 水産物輸入再開へ前進も政権浮揚見通せず
石破茂首相は15日(日本時間16日)、南米ペルーの首都リマで就任後初めて米国のバイデン大統領や中国の習近平国家主席と会談した。一連の会談は政権基盤が脆弱な首相にとって、外交で存在感を示す機会でもあった。習氏から日本産水産物の輸入再開に向けて前向きな姿勢を引き出し、日米韓連携の「制度化」へ前進を図るなど一定の成果はあったが、政権浮揚につながるかは見通せない。 日中首脳会談の冒頭、右手を差し出して笑みを浮かべる習氏とは対照的に、首相は厳しい表情で両手で握手を交わした。しかし会談後は一転、記者団に「非常にかみ合った意見交換だった」と満足そうに語った。会談では、日中間の懸案の一つである東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受けて中国が停止した日本産水産物の輸入再開について、中国側の態度軟化が目立った。 昨年11月、岸田文雄前首相は米サンフランシスコで習氏と会談し、処理水の海洋放出を巡り激しいやり取りを交わした。 今回の会談について、外務省幹部は「あの時とは大きく違う。ピリッとしたものではなかった」と語る。習氏自らが初めて、日中で合意した輸入再開に向けた取り組みの着実な実施に言及し、前向きな姿勢を示した。習氏の言葉は「しっかりやれという部下への指示でもある。この問題を動かしていく意思がはっきりした」と受け止める。 首相も会談後、習氏に応じるように「首脳同士で会談することの重要性を改めて強く認識した」と強調し、首脳間を含む人的往来の活性化に意欲を示した。 ただ、中国側の「原則的な考えは変っていない」(外務省関係者)。習氏は会談で従来通り処理水を「核汚染水」と呼び、輸入再開時期も不透明なままだ。 首相は会談で、日本周辺で活発化する中国の軍事活動に重ねて懸念を示したが、習氏は従来通り自らの正当性を主張したとみられる。中国の軍事的脅威に対し、日本は日米同盟を軸に抑止力を高めるとともに、中国側との直接対話で歯止めをかけたい考えだが、空振りが続く。日中間の課題解決には、なお対話の積み重ねが必要となる。 一方、日米韓3カ国の首脳は15日の会談で、協力の調整を担う事務局組織の設置で合意した。北朝鮮の軍事動向が緊張の度合いを増す中、多国間協力の枠組みに消極的なトランプ米次期政権へ移行後も、3カ国連携を後退させないため布石を打った格好だ。
ロシアと北朝鮮による軍事連携の拡大など厳しい東アジアの安保環境を踏まえれば、3カ国連携の重要性は増している。首相は会談を受け「トランプ次期大統領との間でも日米同盟を新たな高みに引き上げ、日米韓の戦略的連携を強化するため努力していく」と強調した。(リマ 小沢慶太)