学校でのいじめはネットへ移行、16歳未満のSNS禁止は本当に解決策か
ブリスベン(CNN) オンラインでの安全について訓練を提供している企業「セーフ・オン・ソーシャル」の創業者で最高経営責任者(CEO)キラ・ペンダーガストさんは、オンラインでの安全について学んでもらうため、毎年何千人もの10代の若者たちと話をしている。 【映像】16歳未満のSNS利用を禁止に動くオーストラリア ペンダーガストさんは、メッセージのやり取りやいじめ、性的脅迫(セクストーション)、脅しなど、若者がオンラインで何をしているのかを知っている。しかし、今月、12歳と13歳の学生が集まった部屋で直面した敵意に対しては何の準備もしていなかった。 ペンダーガストさんはオーストラリアの高校で3回にわたり講演を行う予定だった。しかし、最初の講演が始まってからわずか数分で、少年のグループが、ペンダーガストさんの発表で示された女性について、女性蔑視のインフルエンサーの間でよく使われる侮辱的な言葉を叫び始めた。 教師は少年たちを黙らせようとしたが、最前列にいた女子生徒が口にした最後の暴言でペンダーガストさんの虚勢は崩れ落ち、ペンダーガストさんは涙を流しながら教室を逃げ出した。 ペンダーガストさんはこの直後に自分の車の中で撮影した動画で、「今日、私が目撃した行動は彼らがネットで見たものに完全に影響されていると思う。事実、私はそうであることを知っている。そして、それは変わらなければならない」と語った。 ペンダーガストさんは、オーストラリアで提案されている16歳未満のSNSの利用を禁止する法案についてこれまで反対の姿勢をしていた。しかし、今回の件があってから、支持する方へと考えを改めたという。 オーストラリア政府は今週にも、「世界をリードする」とうたうSNS禁止法案について、議会を通過させたいと考えている。法案では、16歳未満の子どものアカウントがSNSから消去される。対象となるのは、スナップチャットやティックトック、フェイスブック、インスタグラム、レディット、X(旧ツイッター)などだ。 法案が成立すれば、裁判所は、年齢制限の対象となった子どものサービス利用を防ぐ為の合理的な措置を講じていない企業に対して、約5000万オーストラリアドル(約50億円)の罰金を科すことができるようになる。 政府は企業に対し、そうした方途を指示していないものの、少なくとも年齢認証技術を導入することを期待している。これにはプライバシーの問題も伴うが、政府は法案の中で対処するとしている。 しかし、反対派は納得していない。 今回の法案について、選挙を控えるなか、政治的な駆け引きによって急いでまとめられた法案であり、規制を無視した子どもたちを規制のない領域へと潜り込ませることになるとの批判が出ている。 支持派は、今回の法案で1人の命が助かるなら、それだけで価値があると主張する。 過去数カ月の間でも、2人の子どもが自ら命を絶った。2人はオンラインでいじめを受けていたとされる。 亡くなったのはシャーロット・オブライエンさんとエラ・キャトリークローフォードさん。いずれも12歳だった。 シャーロットさんの両親は、16歳未満にSNSの使用を禁止する法案を支持するキャンペーンに参加。今月には首都キャンベラを訪問し、アルバニージー首相に12万4000人が署名した嘆願書を送り届けた。この中では、SNSの利用制限を13歳から16歳に引き上げることを求めている。 臨床心理士のダニエレ・アインスタイン博士は、学校が授業時間外、手の届かないプラットフォームで行われる地雷原のようなやり取りを通り抜けていると語る。 アインスタイン氏は禁止法案を支持しているが、それは電話やグループチャットが対面でのやり取りに取って代わっていると考えているためだ。対面でのやり取りはどのように人々とつながり、対立を解決するかについて子どもたちに教えてくれる。 オーストラリアで主要政党間の合意は珍しいが、今回の法案では歩調を合わせている。6月に野党・自由党がSNSの年齢制限を提案し、アルバニージー首相や各州の首長がこれを支持した。 多くの専門家にとって議論の焦点はSNSの悪影響ではなく、全面的な禁止が正しい対応なのかどうかだ。 140人余りの専門家は10月、連名で政府に書簡を送り、今回の禁止令は問題に対する「切れ味の悪い」対応であり、IT企業がオンラインで子どもたちの安全を守るために、より多くの投資を行うインセンティブ(動機付け)を奪うものだと訴えた。 SNSを調査している共同委員会もこうした見方に同意したようだ。数カ月間にわたる公聴会と数百もの提出書類を受けて発表された最終報告書は禁止を呼び掛けるものではなかった。 報告書では、「デジタルプラットフォームを効果的にオーストラリアの管轄下に置く」ための法改正を提言し、若者に影響を与えるような法改正は「若者と共同で設計」されるべきだと指摘した。