『虎に翼』『光る君へ』が描く令和まで地続きの問題 吉田恵里香&大石静の脚本術が光る
「よるドラ」の精神が如実に反映されている『虎に翼』
4月から始まった『虎に翼』はその極北と言える作品だ。日本初の弁護士、裁判官、裁判所長を務めた三淵嘉子の半生を題材にした本作は、昭和初頭を舞台に猪爪寅子(伊藤沙莉)が弁護士になるために明律大学の女子法科に入学する朝ドラだ。女子学生が法律について学ぶ姿を描く学園ドラマテイストの本作だが、劇中で繰り返し描かれるのが日本社会に蔓延する女性差別だ。 当時の民法において、婚姻状態にある女性は無能力者とされており、夫の許可なく財産を利用したり、働きに出ることができないと知り、寅子は唖然とするが、当時の法制度と社会の価値観によって女性が酷い状態に置かれ苦しんでいたかを、本作は執拗に描いていく。 そんな社会の隅々に蔓延する女性差別に対する怒りが「武器と盾になり得る法律を学び弁護士を目指す」という寅子たちの学ぶ意志につながっている。 日本のテレビドラマ、中でも朝ドラは女性の生きづらさを描いた作品が多い。本作でナレーションを担当する尾野真千子が主演を務めた『カーネーション』を筆頭に、近年は女性の社会的自立を描いたフェミニズム思想を内包した朝ドラが年々増えていたが、『虎に翼』を観ていると、ついにここまで来たかと感じる。 脚本の吉田恵里香は『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系)やアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』などの脚本家として知られており、他者に恋愛感情も性的欲求を抱かないアロマンティック・アセクシャルの男女の同居生活を描いたよるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)の脚本を手がけ、大きく注目された。 また、本作の制作統括は『恋せぬふたり』を筆頭とする「よるドラ」枠に関わっていた尾崎裕和が担当している。「よるドラ」にあったブレーキを踏んで周囲に忖度する場面でも、あえてアクセルを踏んで行けるところまで突き進む「よるドラ」の精神は、朝ドラの中でも健在で、「よるドラ」ファンだった立場としては実に嬉しい。 「よるドラ」がそうだったように『虎に翼』も、危なっかしさも含めて見逃せない作品となっており、これからどんな世界を見せてくれるのか楽しみである。
成馬零一