「南海トラフ臨時情報」への対応を検証せよ 経営層が備えるべきBCP「4つの視点」
経済損失1240兆円以上 どの程度まで対策をとるのか?
2019年に更新された政府の南海トラフ地震の被害想定によれば、死者行方不明者は最大23万1000人(生活関連死のぞく)経済被害は213兆円にも上る。さらに、土木学会の試算によれば、道路網や生産拠点の被災により、発生後20年間の累計では経済損失が1240兆円以上に及ぶという。これほどの被害が万が一にも減らせる可能性があるのなら、多少、信ぴょう性に乏しい情報であっても、安全な対策を最優先すべきと考え行動した人の心境も理解できる。厄介なのは、それが一度や二度ではなく、今後何度となく発出される可能性もあるということだ。 臨時情報への対応について、基本的な考え方を定めた政府の「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン(第1版)」によれば、地震発生時期などの確度の高い予測は困難であり、完全に安全な防災対応を実施することは現実的に困難であることを踏まえ、地震発生可能性と防災対応の実施による日常生活・企業活動への影響のバランスを考慮しつつ、「より安全な防災行動を選択する」という考え方が重要だとしている。 実際にM8以上の地震が起きた後、発出される「巨大地震(警戒)」情報についてはさらに踏み込んだ行動事例まで挙げられているが、今回の「巨大地震(注意)」情報については、「日ごろからの地震への備えを再確認する」との表現にとどまる。かなり漠然としていているが、つきるところ、市民であれ、企業であれ、どの程度まで対策をとるのかは自分たちで決めるしかない。 では、次回も「臨時情報が発表されたら、その時考えよう」とのんきに構えていていいのか。特に企業については、取引先や従業員、顧客などの心境も踏まえ、しっかりとした対応をとることが求められる。臨時情報の受け止め方はさまざまだ。今回はお盆前だったことから休暇中だった社員も、次回の臨時情報時には「命を守るために出社したくない」と思うかもしれないし、取引先によっては対面の打ち合わせはしたくないという企業もいるかもしれない。 さらに制度の内容を初めて知った人が多いことから、次回は買いだめに走る人がさらに多くなる可能性もある。店舗から商品はあっという間に消え、そんな中で、地元に名の通った企業が物資やガソリンを買いだめに走るようなことがあれば、企業の評判を落とすことにもなりかねない。 企業は、ステークホルダー、あるいは、社会全体の動きを読みながらも、自社として適切な行動をとる必要がある。例えば、南海トラフ地震の被害が想定される地域に出張する際には、必ず先方の意向を確認した上で行くようにする。その際も事前に避難場所を確認する。出社に関しては不安に思う人がいると思うなら在宅勤務を許可する、などだ。事業についても、顧客の安全にかかわるようなものなら、一時的に中止をする、安全対策を強化するなどの方法も検討したほうがよい。 時事通信の記事をもとに、今回の臨時情報への企業の対応をまとめると、交通機関では、JR東海が南海トラフ地震臨時情報の発表を受け東海道新幹線の三島―三河安城間の上下線で通常より速度を落として運行したほか、JR西日本は「くろしお」など一部の特急列車や寝台特急の運転を取りやめた。日本航空は旅客機が離陸後に引き返すことを想定し、想定震源域内の空港に向かうフライトでは通常より多く燃料を搭載することにした。いずれも思い付きですぐにできるような対応ではない。おそらく、こうした情報が出た際の対応を、あらかじめ検討していたのだろう。 このほか、イオンでは全国の店舗に、棚の固定や商品などの落下防止策が取られているか確認するよう指示をした。ローソンは沿岸地域の店舗に避難場所を再確認するよう呼びかけた。東芝は、国内従業員に対し、安全確保に関するマニュアルを日本語と英語で周知した。日本製鉄は消火設備の点検や避難誘導通路の確認など、地震対応を再確認した。こうした事例も参考に、自社がとるべき行動を検討しておくことが重要だ。