【ドキュメンタリー】58年 無罪の先に-袴田事件と再審法- 世紀を超えた冤罪事件が問いかけるもの#3
静岡県浜松市。ここに年老いた2人の姉弟が暮らしている。袴田ひで子(91)と巖(88)だ。巖は半世紀近く拘置所にいたことで心身に異常をきたす拘禁症を患っていて、釈放から10年あまり経った今なお意味不明な言動が続く。ひで子は弟に代わって無罪を勝ち取ると決め、現在は法律の壁を打ち破ろうと動き出している。(敬称略・#1~2から続く) 【画像】巖の無罪が確定した月に再審開始が決まった前川
運命を変えた“カラー写真”
実際に、2009年以降、証拠開示が実現し再審開始へとつながった事件もある。 それが、1986年に福井県福井市で女子中学生が自宅で何者かに刺され殺害された事件だ。 逮捕・起訴された前川彰司は一審で無罪だったが、二審では懲役7年の有罪判決を受ける。 だが、刑期を終え、出所した後に再審を申し立てると、供述調書など一部の証拠が開示され、2024年10月にはついに再審開始が決定した。 指宿は「やはり裁判官は日常的には通常の裁判をやっているわけで、証拠開示は日常的。別に特別なことではない。そして、開示しても何か問題が起きているか、証人威迫があるか、証拠隠滅が起きて大問題になるかと言えばない。では、開示しても別にいいのではないかという心理的なハードルが下がったというか、抵抗感がなくなった」と話す。 巖の弁護団も、検察が一部の証拠を開示した2010年以降、「他にも未提出の証拠があるはず」との思いから、4年間で実に20回を超える証拠開示請求を申し立て、結果として延べ600点近い証拠が事件から40年以上が経過してから明らかになった。 そして、その中には有罪判決の決め手となった“5点の衣類”をより鮮明に写したカラー写真も含まれている。 弁護団事務局長の小川は「(カラー写真が)出てきた時に一番ビックリしたのは緑のブリーフ。だって、僕らは緑のブリーフの緑という色が、どういう色だったのかも見たことが無かったわけなので。これ(カラー写真)を見れば誰だって1年2カ月も味噌に漬かっていたなんて思わない」と、その衝撃が今でも忘れられない。 このため、弁護団は支援者と共に実験を重ね、「長期間、味噌に漬かった血痕は赤みを失い黒くなる」との実験報告書を提出し、“5点の衣類”に赤みが残っているのは発見直前に味噌樽に埋め込まれた、捜査機関による“捏造”に他ならないと主張した。