深刻化するオーバードーズ、販売見直しで防げるか、薬局やドラッグストアに求められる対応とは?
一方で「自分たちにできるのは客に対して質問することだけ。ほかの店と連携するにしても、個人情報保護の観点からどこまでの情報を共有したらいいのか判断が難しい」(新井店長)と悩みも語る。 ■適切な支援につなぐ取り組みも道半ば 必要な情報を提供する仕組みにも課題がある。 国立精神・神経医療研究センターではドラッグストアを通じて対策を進めようと、薬局の薬剤師を対象に、オーバードーズの知識や適切な支援先につなげる「ゲートキーパー」としての役割を学ぶ研修動画を作成した。
2023年9月から2024年1月にかけ、研修プログラムを始めたところ、856人が参加を申し込んだ。しかし、実際に動画を視聴し最後のアンケートまで回答したのは262人。多くの人が完了できなかった理由は薬剤師の忙しさにあった。ネットを通じた研修が職務として認められず、勤務時間外に受講するケースが多かったという。 オーバードーズの問題は、薬局や店舗が販売を拒否しても、なくなるわけではない。悩みを抱える人を適切な支援先につなげることが必要だ。だが、そうしたメンタルケアを行える従業員の育成や研修制度はまだ十分に広がっていない。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦薬物依存研究部長は患者や家族のケアの重要性を指摘する。 「市販薬を買えなくなり、転売者から高い値段で購入する、違法薬物の使用に流れるケースもある。市販薬の中には身体依存が強いものもあり、濫用をやめようとすると(離脱症状が出て)かえって危険な状態になる場合もある。販売方法だけでなく、転売やほかの薬物への誘導をどう防ぐか、専門の治療にどうつなげていくかも重要な課題だ」(松本部長)
今回の制度改正は、薬局やドラッグストアでの対応を明確にするという意味で、一定の前進になるのは間違いない。ただし現場からは、効果的な取り組みになるのか、疑問や不安の声があるのも事実だ。 法改正の動きに合わせて、今後は業界団体によるガイドラインやより細かなルールの策定が本格的に進むことになる。深刻化するオーバードーズ問題に対し、業界内外の連携や人材の育成をどう進めていくのか。販売方法の見直しをきっかけに、より踏み込んだ対策を考えていくことが重要だ。
吉田 敬市 :東洋経済 記者