米グーグルが量子チップ「ウィロー」を発表、10の25乗年かかる計算が5分で可能と
クリス・ヴァランス・テクノロジー上級記者 米グーグルはこのほど、新しい半導体(チップ)を発表した。このチップは、現在の世界最速のスーパーコンピュータが100垓年(10の25乗)、つまり10,000,000,000,000,000,000,000,000年かかる問題をわずか5分で解決できるという。 このチップは、「量子コンピューティング」と呼ばれる分野での、最新の開発成果となる。粒子物理学の原理を利用し、新しいタイプの非常に強力なコンピュータを作ろうととしている。 グーグルは、新しい量子チップ「Willow(ウィロー)」は重要な「ブレークスルー」を取り入れており、「実用的で大規模な量子コンピュータへの道を開く」と述べている。 しかし専門家らは、ウィローは現時点では主に実験的なチップだとして、現実のさまざまな問題を解決できるほど強力な量子コンピュータが実現するには、なお数年の年月と数十億ドル規模の投資が必要だと指摘している。 グーグルのウィロー開発に関する科学的成果は、学術誌「ネイチャー」に掲載された。 ■量子力学のジレンマ 量子コンピュータは、現在のスマートフォンやノートパソコンに使われている従来型コンピュータとは根本的に異なる仕組みで動く。 量子コンピュータは量子力学、つまり超微小な粒子の奇妙な挙動を利用し、従来型よりもはるかに速く問題を解決する。 これにより、新薬の開発といった複雑なプロセスを大幅に高速化できるようになると期待されている。 一方で、量子コンピュータの悪用も懸念されている。たとえば、機密データ保護に使用される一部の暗号を破るために使われる可能性がある。 米アップルは2月、チャット機能「iMessage」を保護する暗号が、将来の強力な量子コンピュータによって破られないよう、「量子耐性」を持たせると発表した。 ウィローを開発した「グーグル・クォンタム・AI」を率いるハルトムート・ネーヴェン氏は、自分はこのプロジェクトの「最高楽観主義者」なのだと話した。 ネーヴェン氏はBBCに対し、ウィローがいくつかの実用的なアプリに使用されるだろうと述べたが、詳細については現時点では明らかにしなかった。 一方で、2020年代の終わりまでに商業用途に対応できるチップが登場することはないだろうとも、ネーヴェン氏は話した。 量子チップはまず最初に、その効果が重要なシステムのシミュレーションで使われる見通し。 「たとえば、核融合炉の設計や薬品の機序理解、製薬開発、それから電気自動車(EV)向けのより良いバッテリーの開発など、他にも多くのタスクに関連するだろう」 ■「性質が全く違うもの」 ネーヴェン氏はBBCに対し、ウィローはその性能から「これまでに作られた中で最高の量子プロセッサー」だと述べた。 しかし、サイバーセキュリティーを専門とする英サリー大学のアラン・ウッドワード教授は、量子コンピュータはさまざまなタスクで現在の「古典的」コンピュータよりも優れているものの、置き換わることはないだろうと話す。 ウッドワード教授はまた、ウィローのたった1回のテストでの成果を過大評価しないよう忠告している。 「性質が全く違うもの同士を比較しないよう、注意する必要がある」 グーグルは今回、性能のベンチマークとして「量子コンピュータに特化した問題」を選んでいるため、古典的なコンピュータと比較した際の「普遍的な速度向上」を示しているわけではないという。 それでもなお、ウィローは特にエラー訂正の分野で重要な進展を示していると、ウッドワード教授は指摘した。 量子コンピュータにおける情報の基本単位を「量子ビット(キュービット)」と呼ぶ。非常に簡単に言うと、量子コンピュータが役に立てば立つほど、キュービットがたくさんあるということになる。 しかし、この技術はエラーが発生しやすく、それが大きな難点となっている。しかも、チップのキュービットが大きいほどエラー発生の傾向も増加していた。 これについてグーグルの研究者らは、この問題を覆し、キュービットが増えるにつれてシステム全体のエラー率が低下する新しいチップを設計・プログラムしたと述べている。 ネーヴェン氏は、これは「ほぼ30年間」にわたって追求されてきた重要な課題を解決する大きな「ブレークスルー」だと考えている。 「エンジンが1基だけでも飛行機は動きはするものの、エンジンが2基なならより安全で、4基のエンジンがあればさらに安全だ」 ウッドワード教授は、より強力な量子コンピュータの開発にとってエラー発生は重大な障害なので、グーグルの開発成果は「実用的な量子コンピュータの構築を目指すすべての人にとって励みになる」と述べた。 しかしグーグルも、実用的な量子コンピュータを開発するためには、エラー率をウィローが示したものよりさらに下げる必要があるとしている。 ウィローは、米カリフォルニア州にあるグーグルの新しい専用製造工場で作られた。 ■量子コンピューティングへの投資 現在、世界各国が量子コンピューティングに投資している。 イギリスは最近、国立量子コンピューティングセンター(NQCC)を設立した。 その代表のマイケル・カスバート氏はBBCに対し、「ハイプ・サイクル(技術の成熟度や社会への適用などを示す図の意味)」をあおるような物言いに自分は慎重なのだと答えた。そのうえで、ウィローは「ブレークスルーというよりもマイルストーン」だと考えていると述べた。 それでも、ウィローは「明らかに非常に印象的な製品」だと評価しているとも、カスバート氏は話した。 カスバート氏は、量子コンピュータは最終的に、「航空貨物輸送の分配といった物流問題や、通信信号のルーティング、全国的な電力網におけるエネルギーの貯蔵など、さまざまなタスク」に役立つだろうと述べた。 また、イギリスにはすでに50件の量子技術関連ビジネスがあり、これまでに8億ポンドの資金を集め、1300人を雇用しているという。 英オックスフォード大学と日本の大阪大学の研究者らは6日、イオントラップ型量子コンピュータが非常に低いエラー率を示すとする論文を発表した。 これは、室温で動作可能な量子コンピュータを実現するもので、超低温で保存する必要があるグーグルのチップとは異なるという。 (英語記事 Google unveils 'mind-boggling' quantum computing chip )
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