日本事業売却後の「ボーダフォン」のいま:欧州では通信会社として健在?
欧州の携帯電話市場で過当競争に巻き込まれる「ボーダフォン」
日本国内でサービス展開をしていた際には、デイヴィッド・ベッカム氏を起用した広告キャンペーンなどで広く知られていた「ボーダフォン」。ベッカム氏がかつてイメージキャラクターを務めていたように、ボーダフォンは英国をはじめとする欧州事業(※及び近年はアフリカ事業)でシェアを持っています。 2019年以降、ボーダフォンは5Gへのシフトに乗り出し、たとえばドイツで5G向け周波数オークションに参加し、落札。一方で2024年春、ボーダフォンは英国での3G回線を停波しています。3G停波に極めて大規模なリソースを要した反面、5Gへの取り組みは必ずしもうまくいかず、なおかつ欧州内の通信事業者の競争が過熱。最終的に欧州内の複数の国での事業の売却にいたっています。
ファーウェイ問題の余波を受けたボーダフォン
ボーダフォンは2019年以後、5Gへの取り組みに注力。先にも述べた通り、たとえばドイツで5Gのオークションに参加し、落札もしています。 一方、ボーダフォンの5G展開には問題も発生していました。最大の困難は、5G機器として中国の通信機器大手ファーウェイ製品を採用していましたが、2021年にイギリス政府が通信網にファーウェイ製品を使用することを禁止したこと。この決定に対し、ボーダフォン側はファーウェイ製品の除去に約2億ユーロかかると発表。 3G停波と5G展開向けに展開していたファーウェイ製品の除去による、5G展開の遅れという2つが重なっており、ここ数年はボーダフォンにとって「大変な時期」であったことは間違いないでしょう。 ■スペイン事業やイタリア事業をすでに売却済み 先にも述べた通り、ボーダフォンは欧州でのシェアが大きな通信企業。しかし欧州圏内の一つひとつの国の人口は決して多くはなく、経済規模が大きな国もある程度限られている一方で、3G停波と5G展開には膨大なコストを要します。また通信会社の数自体も増加しています。つまり「契約者数の母数と伸びしろ」の面で難しい局面にある一方で、本格的な5G展開の初期投資が大きく、欧州はいわば「通信会社の過当競争」に陥っています。 ボーダフォンも競争に巻き込まれているのは間違いなく、事業の再編を進めています。2023年10月には、スペイン事業をイギリスの投資会社Zegonaに売却する契約を締結。さらに、2024年3月にはイタリア事業をスイスの通信会社Swisscomに80億ユーロで売却することを発表しています。これらの動きは、ボーダフォンが収益性の低い市場から撤退し、より成長が見込める市場に注力する戦略の一環と言えます。 ■英国内でも競合他社の経営統合計画を実施 イギリスでは国内シェア3位だったボーダフォンですが、2023年にシェア4位のスリーUKとの統合を発表。これにより、顧客数は2800万件となり、イギリス国内で最大手となる見込みです。このような事業再編を通じて、欧州での競争力強化を進めていると言えるでしょう。