タテ読みマンガ…マンガ市場の新たな可能性【SENSORS】
■新たな表現方法から、新たな才能が生まれる
タテ読みマンガは、コマ割りの仕方や“間”の取り方など、従来のヨコ読みマンガと表現方法が大きく異なる。制作・配信を手掛ける株式会社ソラジマ 共同代表の前田儒郎さんは、クリエイターが新しい表現を模索すること自体の面白さを指摘する。 「日々タテ読みだからできる新しいアイデアが生まれています。例えば、スクロール中の目線の動きを踏まえた最適なセリフの位置や、インパクトのあるシーンをどう見せるかといったことです。誰も正解を知らないと、誰かが新しいことを見つける。アメリカ大陸を見つけるみたいな感じで。新たな才能が生まれるかもしれないことにも大きな可能性を感じています」
一方で、編集者としてタテ読みとヨコ読みのどちらも手掛けてきた佐渡島さんは「僕は差をもって作っていない」と話す。 「縦スクロールのほうが早く読める必要があるので、テンポは少し違うと思います。ただ、それは見開きの時代でも、週刊誌なのか、月刊誌なのかでも違いました。漫画家の創作する力がどうすれば向上するのか。数をこなすことで上がるという考え方もあれば、僕の場合はじっくり話し合って、その作家らしさみたいなものを見つけることで、その先で生まれていく創作がうまくなっていくんじゃないかと考えています」
■分業で広がる新たな市場
従来の漫画と比較して、タテ読みマンガは分業が進んでいる。個人では難しかったような、フルカラーで膨大なコマの描き込みがあるような連載をすることもできる。その結果、原作、着色、キャラクターデザイン、衣装デザインなど、それぞれの得意分野を活かして制作できる。それは従来のドラマや映画を制作するプロセスにも通じる。 一方で、分業制の制作で偉大な作品が生まれるのか、佐渡島さんは問いを投げかける。 「タテ読みマンガが進んでいる韓国の分業制が注目されていますが、韓国ではプラットフォーム自体が開かれていて、スタジオが分業制で作るマンガだけではなく、個人が作るマンガもあります。個人が原稿料ももらわずに何十週も作っていたら、気がつくとすごく面白いものが生まれていたということもあります」 山下さんは、作り方の選択肢が広がったことに可能性を感じるという。 「そういう意味ではまだセオリーが確立されていない分、タテ読みマンガにはいろいろな可能性があるのではと思っています」