なぜ古川琴音の演技は観る者の心をざわつかせるのか? 2024年ブレイク女優、人間の複雑さを体現する芝居の魅力を解説
日本の映画やドラマ界で大きな注目を浴びる俳優・古川琴音。2024年夏の月9ドラマ『海のはじまり』で主人公の元恋人役を演じて話題を呼び、10月には、大ヒットコミックを映画化した『劇場版 ACMA:GAME 最後の鍵』の公開を控えている。そんな快進撃を続ける古川の魅力とは。これまでの出演作品を交えて考察。(文・松尾奈々子) 【写真】古川琴音が可愛すぎる…。貴重な撮り下ろし写真はこちら。インタビューカット一覧
時のひと、古川琴音
「ついに見つかってしまった」。そんな古参で通ぶった所感を持ってしまうほど、彼女の活躍はめざましい。 正確にいえば、2018年のデビューから3年後の2021年には、今泉力哉監督の『街の上で』や濱口竜介監督の『偶然と想像』と名だたる監督の映画作品に相次いで出演しており、その才能は早くも見出されていたのだが。 とくに、短編オムニバス映画『偶然と想像』では、古川琴音がその魅力を存分に発揮した作品といえるのではないだろうか。第71回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員グランプリ)をはじめ、さまざまな映画祭で賞を受賞した本作は、全3編の物語のほとんどが登場人物の会話にフォーカスされるという役者の力量が如実に表れる構成だ。 古川は、第一話の「魔法(よりもっと不確か)」で主役の芽衣子を演じている。
『偶然と想像』でみた、古川琴音の演技力の真髄
モデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影帰りのタクシーで、仲の良いヘアメイクのつぐみから最近出会った意中の男性との惚気話を聞かされる。どこか上の空な間合いで相槌ちを打ったかと思えば、口の悪い言葉を勢いよく発したり、つぐみの顔をじっと見つめたり、どこを眺めているとも言い難いぼんやりした目を見せたりと、捉えどころのない所作や表情が印象にのこる。 この車内で繰り広げられる会話のシーンは実に10分近くと長尺で映し出されるが無論、冗長には感じない。傍観者でなく友人Aとしてその場に居合わせたような感覚に陥り「しゃべり続けるつぐみに芽衣子は何を思っているのだろうか」とどこか緊張しながら、芽衣子の顔色を伺ってしまうのはなぜか。 話し手はあくまでつぐみだが、芽衣子に目を向けてしまう。古川琴音の魅力は、自然体でありながら、独特の存在感を放つ演技にあるとつくづく思うのだ。