なぜ古川琴音の演技は観る者の心をざわつかせるのか? 2024年ブレイク女優、人間の複雑さを体現する芝居の魅力を解説
体現する人間の複雑さ
古川琴音演じる芽衣子の物語は続き、つぐみがタクシーを降りた後、芽衣子はある場所へ向かった。素直で奔放的な印象の芽衣子だったが、次第に本人自身も認めがたい感情や欲望と行動との矛盾が垣間見えるようになる。 芽衣子は我儘で勝手で自己中だが、それは強烈な寂しさや孤独の裏返し“かもしれない”。相手を見下し試している自分を俯瞰しては、負い目を感じている“かもしれない”。 芽衣子自身という人間をカテゴライズすることなく、不確かな認識が数多く介在する存在として、ありのままを演じている。そんな姿に私自身の表裏一体な部分を認めてもらったような安心感を抱く。と同時に、一種のざわめきに触れたような思いもした。 古川琴音のもうひとつの魅力。それは、人間とは多面的であることを思い出させてくれるところだと私は思う。
『Cloud クラウド』で再確認する、圧倒的な演技力
さて、古川が出演する最新作映画『Cloud クラウド』。巨匠・黒沢清監督作品に満を持して登場した古川は、菅田将暉演じる主人公で“転売ヤー”の吉井の恋人・秋子役を務める。 ここでも、古川が醸し出す人間の多面性、その根源となる内に秘めた欲望や混沌とした感情は顕在だ。無邪気で献身的な秋子はサスペンススリラー作品唯一の心の拠り所かと思われたが、その目が笑うことはなく、内面にはグツグツと煮え切った怒りや悲しみ、憎悪の色が隠されていたことに、映画を見終わってから気づいたのだった。あの目と衝撃は、ぜひ劇場で見てほしい。 自然体の演技と独特の存在感をもって、見る人の心を揺さぶる古川琴音。2024年は、そんな彼女の才能と魅力がより多くの人に伝播した転機の年と位置付けられるのではないだろうか。これからも躍進し続ける彼女から、ますます目が離せない。 (文・松尾奈々子)
松尾奈々子