給食を通し「手話」学ぶ 来春条例施行の佐賀県江北町 味の感想、違う手段で
手話を使いやすい生活環境の整備を目指し、佐賀県江北町は2025年春に「手話言語条例」を施行する。同町は子どもたちに手話への理解を深めてもらおうと11月下旬、町立江北中学校で手話体験ワークショップを開いた。同町で育ち、ろう者で「視覚演劇」の俳優として活躍する井崎哲也さん(72)が協力。給食の時間、井崎さんは3年生の教室を訪ね、食にまつわる手話もレクチャーした。 給食開始前の午前中、同中の体育館に全校生徒が集まった。井崎さんが両手を上げてひらひら動かし、「手話では、拍手はこうします」。手話通訳士が音声に変え、呼びかけた。生徒が一つ一つ、手話をまねていった。 「日本ろう者劇団」創立メンバーとして40年以上、舞台に立つ井崎さんはパントマイムの達人。小道具なしで「ドアを開けて入る」演技をすると、静かな空間が手話の拍手で“にぎやか”になった。 チャイムが鳴り、給食の準備が始まった。献立は麦ご飯、春巻き、春雨のあえ物、厚揚げの中華風煮。中華風煮の甘酸っぱい香りが広がる3年生の教室に、井崎さんが訪れた。
「おいしい、の手話は、頬を手でポンポンとたたく、手のひらでよだれを拭う、こぶしでよだれを拭うの三つあります」と、井崎さん。「こぶしで拭うのは男らしい手話です」。説明を受けた生徒たちは給食を食べ、隣の人に向けて実践した。 小森亜優さん(15)が「同じものを食べると、手話を練習しやすい」と言った。共通の体験がコミュニケーションのきっかけになるためだ。岸川寧々さん(15)は「手話は表現方法が豊かで面白い。もっと知りたい」。 「ごちそうさまでした」。生徒が両手を合わせ、軽く礼。感謝の作法は、手話も同じ。
手話とパントマイムを組み合わせた演劇表現「サインマイム」や、手の動きで音楽の世界を表現する「手歌」などの普及に尽力してきた井崎哲也さんに、手話通訳士の協力を得て話を聞いた。 ――給食で手話を教えて、感じたことは何かありますか。 生徒のまなざしが真剣だった。「食」を通じた教育は、子どもの興味関心を高める可能性を秘めている。 ――手話は、万国共通なのですか。 日本語や英語など音声言語と同じように、国によって手話も違い、日本では方言がある。「水」は、東京では川の流れを表現するが、佐賀では蛇口をひねるように手を動かす。 ――社会の手話への理解は進みましたか。 良くなったと思う。1979年に米国のろう者劇団の公演を見て、「これで食べていきたい」と思い、俳優になった。手話劇を演じたり、教えたりする中で「手話も言語」だという理解が広がっているのを感じる。 (佐野太一)
[ことば]手話言語条例
「手話は独立した言語」という認識を広げ、誰もが安心して生活できる地域をつくることが目的の条例。全日本ろうあ連盟によると、11月中旬までに、全国の自治体の3割ほどで成立した。
日本農業新聞