英国アカデミー賞(BAFTA)で起きたドラマを一挙総覧
政治的発言もピー音で消さないBAFTASの懐の深さ!
モノローグでテナントが「ケンの苗字はローチだよ」と茶化したが、ケン・ローチ監督は授賞式にご出席。テナントのジョーク後、カメラを不機嫌そうに見つめていた彼は、レッドカーペットでは “ガザの虐殺を止めろ”と書いたポスターを掲げていた。社会主義者であり、弱者を救おうと闘うローチ監督の不屈の魂に万歳なのだ。ローチ監督のポスターに文句を言う人がいなかったことからも明らかだが、BAFTASは政治的発言を封じ込めようとはしない。最優秀外国語映画賞を受賞した『関心領域 Zone of Interest』(’23)のプロデューサー、ジェイムズ・ウィルソンが「ガザやイエメン、マリウポリやイスラエルで殺されている無辜の人々のことを考えなければならない」とスピーチすると、会場は一斉に湧き上がった。
ルーツを忘れないサマンサ・モートン
今年、映像芸術における傑出した功績を讃えるフェローシップ賞を受賞したのは、サマンサ・モートン。『マイノリティ・リポート』(’02)といったハリウッド大作はじめ、人気TVシリーズ「ウォーキング・デッド」(’10~)やアートハウス作品などさまざまな作品で活躍する彼女は、会場に座るローチ監督を意識した上で、「学校で『ケス』を見て救われた」と受賞スピーチを開始。「貧困や私のような人々、私の人生や家族がスクリーンに映し出されるのを見て、私は自分自身を認識しました。そして表現こそがが重要なのだと。……私たちが語る物語には、人々の人生を変える力があるのです。映画は私の人生を変えました。映画が私を変え、今日ここに導いてくれたのです」とスピーチしたサマンサは、賞を「養護施設にいる、あるいは養護施設にいたことがあり、生き延びることができなかったすべての子どもたちに捧げる」と続けた。ネグレクト家庭で育ち、9歳からは里親家庭に預けられサマンサ。自身のルーツを忘れない姿勢は多くの人の共感を呼んでいる。
サプライズなゲストにスタンディング・オベーション
授賞式を締めくくる、最優秀作品賞を発表したのは、マイケル・J・フォックス。彼を追った『Still』(’23)は最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされていたものの、授賞式へは参加していないと思われていた。そのため、テナントが「真のレジェンド」とフォックスの名前を告げると、会場は大興奮。フォックスが車椅子で登壇すると、人々が次々と立ち上がり、全員によるスタンディング・オベーションとなった。壇上で立ち上がったフォックスは、「映画が魔法だと言われるのには理由があります。映画は人の1日を変えるとことができるし、ときには人生を変えることもできるのです」と語りかけ、集まった映画人や観客を興奮の渦に包み込んだ。