28歳でタオル工場を継いだ6代目の挑戦 職人の創意工夫を引き出した生産体制づくり
特注対応を強みに取引増大
社長就任と前後して、神藤タオルは従来の問屋を通じた自社商品の流通だけでなく、タオルメーカーからの委託製造(OEM)を始めていました。自社製品の価格を下げず、問屋からの発注が次第に減っていたため、代わりにOEMに活路を見いだしたのです。 神藤さんはまず、OEMによる売り上げ増をめざし、縫製や検品などの人手を増強するなどして、滞りがちだった納品までの工程をスムーズにしたり、製造や検品にあたる従業員を新規採用したりして、より多くの注文に対応できる生産体制をつくりました。 さらに、付加価値の高いインナーパイルの売り上げをもっと増やそうと模索し始めました。これは神藤さんが営業担当だった時代からの課題でした。 ただ、旧式の織機でつくるインナーパイルはサイズの誤差が生まれやすく、「商品誤差〇%以内」といった規格を設けているデパートなど小売店への販売が難しい実情がありました。 取り組んだ工夫の一つが、タオルにタグを縫い付けることでした。作業工数をなるべく減らすことでコスト削減を図ることが当たり前のタオル製造業界にとって、タグを縫い付けるという作業は手間がかかることから、対応する業者はあまりありませんでした。 しかし、神藤タオルでは、ある問屋からタグ付けの相談が来た際に対応することを決め、縫製の機械も導入しました。特注品への対応力で差別化を図ったことで、問屋からは「神藤タオルはややこしい希望にも柔軟に対応してくれるから助かる」と喜ばれ、この問屋を介した取引が次第に増えていったのです。 この問屋はインナーパイルについても「サイズがぶれてもかまわない。これをもっと多くのお客様に届けたい」と気に入ってくれ、大量に扱ってくれることになりました。
旧式の織機依存を脱却する新商品
インナーパイルの取り扱いは増えましたが、旧式の織機に頼っていたため大量生産ができないという課題は残ったままでした。しかもその織機はすでに生産が終了していた型で、壊れたらもうインナーパイルは作れなくなってしまいます。 そこで神藤タオルは2010年半ばから新商品の開発に乗り出しました。コンセプトは「柔らかくてボリュームがあり、織機を選ばずに生産できるガーゼタオル」です。 これまでと全く異なる織り方となり、難しい商品開発が想定されましたが、ベテラン職人は様々なアイデアを出してくれました。そして試行錯誤を続け、半年かけて開発したのが「2.5重ガーゼタオル」(ハンドタオルは税抜き800円、バスタオルは同2200~4400円)です。 3枚重ねたガーゼの真ん中の生地だけ密度を半分にすることで、優しい手触りを残しつつも薄さと軽さを実現。インナーパイル用の織機の次に古い機械を調整しながら使うことで、柔らかい風合いを出すための糸の調節ができるようにしました。 「ベテラン職人は、2.5重ガーゼの開発にかかわらず、日頃から様々な新しい生地のサンプルづくりや古い織機のアレンジを行っていました。先代が『新しいことを考えろ』と発していたメッセージに応えようとしていたからです。そんな土壌をベースに、職人が長年積み重ねてきたアイデア・知見が生きたのだと思います」