仕事を続けてきてよかった。「働きママン」作者が語る、キャリア中断せず“働き続けた”先に見えたこと
働きながら育児をする女性たちのリアルな姿を描いた「働きママン」シリーズ。これまで育休明け・保育園入園・小1の壁・小4の壁など、さまざまな「あるある」ポイントが描かれてきました。今回『働きママンまさかの更年期編 ~ホットフラッシュをやりすごせ!』(はちみつコミックエッセイ)では、更年期症状や、若手育成の悩み、子どもの思春期・巣立ちのことが描かれています。後編では、作者のおぐらなおみさんに、キャリアを中断せずに「働き続けること」や、更年期を乗り越えるために考えてきたことをお伺いしました。 <漫画>『働きママンまさかの更年期編 ~ホットフラッシュをやりすごせ!』(はちみつコミックエッセイ)より ■仕事を続けてきてよかった ――「働きママン」シリーズを描く中で、どんなことを大切にしていますか? ストーリー上は前向きに描くようにしています。子育ては大変でしたが、子どもがいる生活で、これ以上ない喜びを私は感じました。子どもたちがうちに生まれてきてくれてよかったと思います。そういったことを読者さんが感じられるよう意識しています。 もう一つ、「仕事を辞めれば解決する」という結論にはしたくないという軸を持ってきました。一旦仕事を辞めるということは、再度働き始めるときに、積み上げてきた場に戻れるわけではなく、0からスタートしなければならないことが多い。私も辞めたくなかったですし、読者さんにも辞めてほしくないという思いで描いています。 ――おぐらさんはずっと個人事業主として働いてきたとのことですが、融通が利く一方で、働かなければ収入が減るなど、個人事業主ならではの大変さがあったと思います。続けてきてどんなことを感じましたか? 漫画の仕事は、他の仕事に比べると、一旦休んで再開するにしてもキャリアがリセットされにくいとは思います。それでも「休んだら仕事がなくなるのでは、世間から忘れられるのでは」と社会的に認められなくなることが怖かったです。家庭の中にしか「自分」がいないことはすごく孤独だとも感じていて、できれば仕事をしていたいとずっと思っていました。 家庭内のトラブルは色々とあったものの、辞めて家のことに専念するのではなく、仕事を続けていて良かったと思うことの方が多かったです。それは単純にやりがいが感じられるということもですし、経済的な理由も大きい。親が家にいなきゃいけないようなトラブルは、大体小学生までだと思うんです。その後、中学・高校・大学とびっくりするくらいお金がかかります。正社員を続けるのと、途中でブランクがあるのとでは、生涯年収に大きな差が出てくる。 進学だけでもお金がかかりますし、加えて塾や予備校に通えばもっとお金がかかる。子どもにはお金の心配をせずに勉強してほしいと思ってきたので、仕事を続けていて良かったと思います。 ■更年期の不調が終わっても、若い頃に戻るわけではない ――作品からは、更年期は大変でありながらも、前向きな空気感や楽しく生きるエネルギーを感じました。更年期を楽しく生きるコツについてどのようにお考えでしょうか? 元々、「更年期はいつか終わる=更年期による不調も期間限定」という知識を持っていました。ただ、自分が更年期になってから思ったのは、更年期が終わっても、更年期が始まった頃に戻るわけではないということ。加齢に伴う変化や、子どもが巣立っているという状況的な変化もあります。体力的にも更年期が始まる頃のように、バリバリ仕事ができるわけでもない。「今しかできないことをする」という柔軟な気持ちを持って、新しい自分の人生を生きる提案をしたいです。 ――おぐらさん自身、何か新しく始めたことや取り入れたことはあるのでしょうか? 美術系の短大に通っています。10代・20代の頃にきちんと美術や絵の勉強をしたわけではなく、学んでみたかったんです。更年期の症状が本当に苦しくて「何か変えたい」という思いが溢れて、思い切って受験しました。頭では更年期による不調だとわかっていても、動悸や大量の汗が出てくると「もうダメかもしれない」と死のイメージを抱くようになって、死ぬ前にやっておきたいことを考えたときに、大学へ行きたかったんです。 更年期じゃなかったら、学ぶとしても、図書館で調べたり、美術館へ行ったりしようと思ったかもしれません。更年期で切羽詰まっていたので、大きな変化がないとダメなんじゃないかと思って、大学に入って学び直すという選択をしました。今すごく楽しいですが、冷静になると、ここまで極端な選択でなくても良かったかもしれないとは思います(笑)。 大学へ行くことで更年期の症状が軽くなることはなかったですし、汗まみれになりながら講義を受けていることも。でもこれからの人生を歩むために必要な勉強ですし、挑戦して良かったです。 出欠の取り方や、レポート提出の方法など、大学の生活そのものが私が若い頃と違って、それに向き合うだけで忙しい。あまり自分の体調を考える暇がなくて、気が紛れる側面もありますね。 ――更年期のメンタルケアで心がけていることはありますか? 私の母親はおそらく更年期の症状でイライラしていました。私も「更年期なんだろう」とわかっていたものの、イライラされるのは嫌だったんですね。 ただ、自分が更年期になってみると、誰かが悪いわけでもないのに、本当にイライラするんです。すごくイライラしているところに、スプーンの音がうるさいとか、階段を走って降りてくるとか、夫や子どもたちがちょっとした火をつけることで、爆発してしまう。 でも「そういうものなのだろう」とも思ったんです。なのでイライラして当たること自体をやめようとするよりは、軽く爆発しても「ごめん、更年期でイライラしちゃうんだよね」と伝える癖をつけて、家族も「仕方ないね」と思ってくれるようになりました。 私は会社員ではないので、想像なのですが、会社で同僚の物音が気になったとしても、イライラはしても怒ることはできないと思うんです。でも家族だと甘えが出て怒ってしまう。怒ってしまうのも家族だけれども、「ごめんね」と言って和むのも家族だと思うので、そういう意味では甘えてもいいかなと思っています。 ――読者さんからの反響で印象に残っていることはありますか? 初期から読んでくださっている方は、自分の子どもが生まれて、保活も大変で、小1の壁、小4の壁があって今回は更年期で、そうやってハードルが訪れる流れに共感していただきました。 仕事は体力的にも人間関係も大変で、子どもや家庭のことだけに向き合う人がいた方がいいのではと考えて、仕事をやめようか迷ったこともあるけれども、働きママンシリーズを通じて「目の前のことをコツコツ頑張ってみたらどう?」と言ってもらった気がした、という感想もいただきました。 仕事で疲れている人にも、「続けていくといいことがあるかもしれない」というメッセージを込めています。私自身も働きながら、「子どもがいなければもっと働ける」と思ったこともあるのですが、子どもがいるから頑張れたところもあるんですよね。 子どもがいる生活は単純におもしろくて、人生の彩りが豊かになりました。少子化と言われていますが、お金があれば産みたい人はいると思うので、産みたい人がその経験をできないのはもったいないと思います。 私は子どもが二人いますが、もう一人いればもっと楽しいだろうと思っていました。でも、もう一人分、大学卒業まで経済的に支えられるかは難しかった。産みたい人が産めるよう、国に頑張っていただきたいですね(笑)。 【プロフィール】 おぐらなおみ イラストレーター&マンガ家&美大生。趣味は飲酒と散歩と耳掃除。群馬県出身。 ・X(旧Twitter):@ogura_naomi ・Instagram:@ogura.naomi インタビュー・文/雪代すみれ
雪代すみれ