「夢に向かって努力」根性美徳の日本人、団塊世代大衆になぜ多かったのか?
日本では、いわゆる団塊の世代前後に内部指向的なメンタリティが顕著に見られます。図4はNHK放送文化研究所が5年おきに行っている「日本人の意識」調査の結果の一部ですが、団塊世代が成人した1970年代ごろには「しっかり計画を立てて、豊かな生活を築く」や「みんなと力を合わせて、世の中をよくする」が多数になっていました。 先日『ブラタモリ』で黒部ダムを紹介していましたが、黒四ダムを建設したり富士山山頂に気象レーダーを設置したりするような巨大プロジェクトに粘り強く挑戦した人たちが、内部指向的な性格の持ち主であったことは想像に難くありません。
3 星に願いを
60年代から70年代といえば、スポ根もののアニメやドラマの全盛期でもありました。人気アニメ「巨人の星」の主人公、星飛雄馬はジャイアンツのエースになるという目標のために子供の頃から厳しい練習に励みます。“♪思い込んだら 試練の道を 行くが男の ど根性”という主題歌は内部指向者のメンタリティをよく示しているといえるでしょう。 この「星」を目指す生き方は、父である星一徹の厳しい教育によって叩き込まれたものでした。リースマンも内部指向者の持つジャイロスコープは、厳しい教育によって据え付けられると述べています。 作品中ではライバルのオズマに野球ロボットと罵られた飛雄馬が恋愛をしようとするエピソードも出てきますが、結局「自分は一体何をしているんだ! 巨人の星を目指すんじゃなかったのか!」と野球の道に戻っていくことになります。リースマンは、内部指向者は目標からそれると罪の意識を感じると指摘しました。そのため、内部指向者は他人が見ていなくても頑張って努力を続けることができるのです。ジャイロスコープの威力はかくも大きなものなのでした。 ちなみに伝統指向者はしきたりから外れると恥の意識を感じます。他地域から嫁いだお嫁さんがしきたりとは反対の方向から敷居をまたいでしまって恥ずかしい思いをした、といった話をかつては聞いたものです。ただし恥を感じるのは人目がある場合に限られるようで、「旅の恥はかき捨て」といった言葉からは、同じコミュニティのメンバーさえいなければしきたりに反してもへっちゃらだったことが伺えます。 こうして第2次産業が主流となる時代に仕事第一、生産第一で努力を重ねた内部指向者は、少子化が進む低成長期を迎えると他人指向者にとって代わられていくことになります。図4は1980年代以降、「身近な人たちと、なごやかな毎日を送る」や「その日その日を自由に楽しく過ごす」が多数派になっていくことを示していますが、こうした逆転劇はいかにして起きたのでしょうか。次回は他人指向の出現と特徴をみていくことにしましょう。 【参考文献】 デービッド・リースマン.1950. (加藤秀俊訳. 1964.)『孤独な群衆』. みすず書房. NHK放送文化研究所編. 2015. 『現代日本人の意識構造[第八版]』.NHK出版. ---------- 大浦宏邦(数理社会学)帝京大学文学部教授 1997年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程卒業、1997年帝京大学文学部社会学科専任講師 主な著書・論文:『社会科学者のための進化ゲーム理論』(2008年勁草書房)、『自分勝手はやめられるか』(2007年化学同人)、「秩序問題への進化ゲーム理論的アプローチ」(2003年理論と方法)