【独自】送金の先には“体制の弱体化” 韓国の「送金ブローカー」が語る対北朝鮮送金の実態 日本メディア初取材
ばれたら“収容所”行き…命懸けの違法送金
違法とされる送金、それはどのような手順で行われるのだろうか。 チュさんによるとまず、北朝鮮の住民に送金したい人が韓国に住むブローカーの銀行口座に韓国ウォンで金を振り込む。金を預かったチュさんたちは韓国内にある「両替所」と呼ばれる場所に“韓国ウォン”を預ける。すると30分から1時間以内に、中国国内にある両替所を通して中国のブローカーへ金が渡り、そこから北朝鮮にいるブローカー経由で住民には“人民元”で金が届く。 それぞれのポイントのブローカーは複数人存在し、最終的な送金先へ金が渡るまでに手数料として4割ほど引かれるという。そうして届く金は1家族につき200万ウォン(約22万円)程度だ。 北朝鮮住民にとって頼みの綱となっている外部からの送金。しかし、中国や北朝鮮当局の監視を避け、金融機関を通さないことなどから韓国では“違法”とされる。さらに、金を受け取るまでの過程で北朝鮮当局に見つかれば、厳しい処罰は避けられないという。 「送り手としては家族の生存をかけて送りますが、北朝鮮政府は容赦をしません。ひどい場合は(ブローカーを)悪名高い政治犯収容所に入れたりします。韓国から来た金だと知っていたとなれば、収容所から永遠に出られません。家族も容赦なく追放されます。中国から数段階を経て(金が)渡るたびに手数料がかかるのですが、その人たちは取り締まりがひどい分、自分の負担金をもらいます。(手数料は)“命の値段”とでも言いましょうか」(送金ブローカー・チュさん)
高まる“外貨需要”…韓国内の取り締まりは強化
送金は北朝鮮で流通している北朝鮮ウォンではなく、中国の人民元など「外貨」で届く。 北朝鮮では今、かつての配給制が崩壊し、闇市場から発展したチャンマダンと呼ばれる市場が各地に広がり、市民の私的経済活動が活発になっている。この市場での取引において、人民元やドルなどの外貨の需要が高まっている。 韓国統一省が2024年2月に公開した脱北者への聞き取り調査では、市場での取引で「人民元を最も多く利用する」と答えた割合は2006~2010年では11.4%だったのに対し2016~2020年には68.4%と急上昇している。また北朝鮮にいながら資金として「“外貨だけ”を保有していた」と回答した割合は、2001年から2005年の間は2.9%だったのに対し、2016年から2020年には41.4%へ上昇した。 韓国統一省は、近年北朝鮮で外貨の流通が拡大した背景として、中国との貿易が盛んになったことや市場の拡大、さらに北朝鮮の貨幣改革の失敗で北朝鮮ウォンの価値が下落したことを挙げており、「人民元とドルをはじめとする外貨は、北朝鮮住民の日常的な経済活動で主要な取引媒介であり、価値保存(資産保有)の手段だ」と分析している。 今や北朝鮮住民の生活に必要不可欠となった外貨送金。違法でありながらも、韓国政府はこれまで“人道的視点”から送金を黙認することがほとんどだったという。 しかし、北朝鮮に強硬姿勢を取る韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が政権を握る中、2023年頃から韓国警察による取り締まりが強化されたと、チュさんや他のブローカーも韓国メディアに明かしている。実際、チュさんも2023年4月に警察の捜査を受けた。 「私を“スパイ”として捜査しようとしたんですよ。それがあまりにも悔しくて…。 合法的にお金を送れるルートが他にあるのなら、こんなことはしません」 北朝鮮の対外工作などに詳しい、自由民主研究院のユ・ドンヨル院長は、ブローカーによる送金行為が、北朝鮮当局に悪用される恐れがあることを指摘。ブローカーから北朝鮮当局に金が流れたり、当局の人質となった北朝鮮住民が脱北した家族に韓国内の情報を要求しスパイ活動をさせたりする事例があるなど、送金行為は北朝鮮当局を利する行為だとして、合法化するのは困難だと説明する。 「政府レベル、または国際的な人権機関のようなところから北朝鮮に送金するやり方が望ましいですが、実際には現状のように違法行為を黙認するしか方法がないでしょう」 またユ院長は、最近の韓国警察の取り締まり強化の動きについても、北朝鮮との関係改善を模索していた文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が消極的な対応をしていただけで、現政権が現行法に照らし合わせ原則通りに行っているための変化だとし、違法送金を美談にしてはいけないと釘を刺す。