農業現場に女性を定着させたい 人手不足が深刻、子育てと両立しやすく
農業現場で女性の人手不足が深刻だ。農水省によると、2022年の基幹的農業従事者数に占める女性の割合は39%で、30年前と比べて10ポイント低下した。パート従業員の確保も苦戦している。どうすれば女性が活躍・定着できるのだろうか。 【グラフ】基幹的農業従事者に占める女性割合
空き家を託児所に パート従業員確保
「子育て中の主婦が職場復帰する前に、ブランクを埋める存在でありたい」。茨城県ひたちなか市の約5・5ヘクタールで育てたサツマイモを使い、干し芋の製造・販売を手がける「しんあい農園」。同園専務の澤畑菜々子さん(37)は、17年に祖父母の空き家を改装し、事業所内託児所を開所した。 働き手は、同園代表で夫の明宏さん(39)と正社員の女性1人。芋の収穫や干し芋の製造には、20、30人のパート従業員の存在が欠かせない。 「働きに出たいが、未就園児を抱え、外に出られないママ友が多かった」ことが開所のきっかけ。保育士のママ友がいたことも運営をスムーズにした。 開園は干し芋を製造する11~3月の平日午前9時~午後2時。2人の保育士で0~3歳児を最大6人まで預かる。料金は1日数百円。最近は口コミで来る人が増え、今年は3人を新たに確保した。 季節仕事は定着が課題とされるが、同園は毎年、安定して人手を確保。「子どもが成長し、夏の収穫や業務時間を延ばす人もいる」(菜々子さん)と波及効果が生まれている。
農業体験の家族連れも〝戦力〟に
栃木県市貝町の農家らでつくる任意団体「いちかい里山くらぶ」は、有機米や有機大豆の農業体験に来た家族連れを“戦力”にしている。小野寺幸絵代表は「月1回でも毎月来てくれたら、貴重な担い手。約40人の会員の6割が女性で、育児経験者も多く、家族連れが気軽に足を運べる環境がある」と話す。会員が増えたため、23年に休憩所や更衣室、トイレを整備した。 4月上旬、種まきを手伝いに宇都宮市から家族3人で訪れた渡邉美和さん(41)は「今回で2回目。休憩所があり、夏も安心して子どもと来られる」と笑顔を見せた。 農業や子育てなどの情報を共有する仲間を増やすため、グループをつくる動きもある。17年に神奈川県から山梨県南アルプス市に移住した片山京子さん(45)は22年4月、県内初のフレッシュミズ組織をJA南アルプス市女性部内に立ち上げた。約50アールの畑でキュウリやトウモロコシを育て、JAに出荷する片山さん。農水省の農業女子プロジェクトに参加する中、地域内のつながりの重要性を実感した。 メンバーは16人で半分が農家。食農教育や直売所の売り場提案など四つのテーマを活動の柱に置き、地域で存在感を高める。 片山さんの前職は大手企業のシステムエンジニア。ダイバーシティー推進を担当した経験も踏まえ、「地域の一員として心のよりどころとなる仲間が必要」とし、「そこに加わる敷居を低くしておくことも重要」と、組織に参画しやすい雰囲気づくりを訴える。