面白いクルマがしれっと消えてるぞ! 一長一短ある個性派コンパクト「スズキ・イグニス」よさらば!!
惜しくも販売が終わったイグニスとは
スズキは軽自動車が中心のメーカーとされるが、このカテゴリーは薄利多売だ。販売台数を増やして量産効果を高める必要がある。しかも近年では、ホンダや日産も軽自動車市場に積極的で、競争も激しくなってきた。 【画像】軽自動車だけじゃない! 個性的なクルマを製造していたスズキの小型車「X-90」などの画像を見る そこでスズキは、2015年に発表した経営計画の「SUZUKI NEXT 100」において、小型/普通車の国内年間販売台数を10万台以上に引き上げる目標を掲げた。この一環として2015年に導入されたのがイグニスだ。2024年に廃止されたが、改めてこのクルマを振り返りたい。 イグニスは「新ジャンルのコンパクトクロスオーバー」としてデビューした。ボディ形状はSUVに含まれるが、機能的にはコンパクトカーに近い。全長は3700mm、全幅は1660mmとコンパクトだが、全高は1595mmと少し高い。仮にイグニスが日本市場の販売を優先させたら、立体駐車場の利用性を考えて、全高を1550mm以下に抑えただろう。イグニスは欧州やインドでの販売が重視され、天井を高めに設定した。 ボディはコンパクトだが外観は個性的だ。とくに後ろ姿に特徴があり、フェンダーがワイドに張り出して、上に向けて絞り込む台形の外観デザインを採用する。外観は見た人によって好みがわかれるため、売れ行きを下げる原因にもなり得るが、遠方から見てもイグニスとわかる。 全長が短く、最小回転半径も4.7mだから、狭い街なかや駐車場でも運転しやすい。注意したいのは斜め後方の視界で、サイドウインドウの下端を後ろに向けてもち上げたから少々見にくい。
実用性の高さが魅力だった
内装は欧州のベーシックカーに似た印象でシンプルだ。エアコンのスイッチは高い位置に装着され、ATレバーも前後に動かすタイプだから使いやすい。居住性は一長一短だ。前席はサイズに余裕があり、硬めの座り心地ながら、腰から大腿部をしっかりと支えて長距離移動も快適だ。その代わり後席は、全長が短いこともあって足もと空間も少し狭い。身長170cmの大人4名が乗車して、膝先空間は握りコブシ1つ半に留まる。後席は座面の長さも不足気味で、前席に比べると40mm短い445mmだ。従って大腿部に違和感が生じる。 荷室も荷室長が短く、リヤゲートを寝かせたから容量も小さい。しかしリヤゲートのヒンジが前寄りに装着されるため、開閉時に後方へ張り出しにくく、狭い場所でも荷物を出し入れしやすい。 パワーユニットは直列4気筒1.2リッターマイルドハイブリッドだ。2WDの車両重量は最上級グレードのハイブリッドMZでも880kgと軽く、動力性能に余裕がある。4気筒エンジンだからノイズも小さい。乗り心地は硬めで、路上の細かなデコボコを伝えやすい。そのかわり、ステアリング操作に対する反応は比較的機敏で、峠道では車両の進行方向を変えやすい。 以上のようにイグニスは、一長一短の多いクルマだった。ボディはコンパクトで小まわりの利きもいいが、後方視界はあまり良くない。インパネのデザインは機能的で前席の座り心地も快適だが、後席は頭上や足もとが狭めで座り心地も良好とはいえない。荷室は狭めだが、リヤゲートの開閉性はよい。走りは機敏で楽しいが、乗り心地は硬めだ。 イグニスは内外装が個性的で、価格もハイブリッドMZが約180万円に達したこともあり、売れ行きは伸び悩んだ。2015年に発売され、2016年の1カ月平均登録台数は約2000台だ。当時のソリオの半分以下に留まった。2023年は約160台だから、2016年の10分の1以下まで下がっていた。 廃止されても仕方ないと思わせるが、欧州のベーシックなコンパクトカーを連想させるユニークなクルマであった。以前のスプラッシュを含めて、スズキはときどき、マニアックで面白いコンパクトカーを投入する。イグニスもそのひとつだ。
渡辺陽一郎
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