米大統領選ハリス氏“失速”か トランプ氏激戦7州で僅差リード 勝敗の行方
2)トランプ陣営の激戦州での戦略 そして問題発言に潜む“計算”
激戦州でのトランプ氏のリードについて、峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)は以下のように分析する。 トランプ陣営と、そこについている選挙コンサルの強さが出ている。2016年にワシントンの特派員として取材をした際に彼らとやり取りしたが、トランプ氏本人とは対照的に、非常に緻密な調査をしている。例えば、州や郡よりも、もっと小さな単位で、民主党の中でもちょっと柔らかな「ソフト・デモクラクラッツ(緩やかな民主党員)」と呼ばれる人たちを抽出して、戸別訪問をかけて説得することを緻密に行い、激戦州の票をドンドンひっくり返していった。このときは最後の一ヶ月、ヒラリー・クリントン氏を激戦州で追い上げて、全得票数では敗れたものの、激戦州を制して勝利した。今の動きは当時と非常によく似ている。さらに、共和党の支持率は民主党に比べ低い状態が30年以上、続いてきたが、今年初めて逆転して共和党が上回った。バイデン氏の失速などを受け、共和党全体の支持者が伸びていることも、一つの要素ではないか。 トランプ氏は、今回の選挙でも、分断を煽るような人種差別的な発言を繰り返している。中でも、今なお物議を醸しているのが9月のテレビ討論会で飛び出した、この発言だ。 「オハイオ州スプリングフィールドでは不法移民たちが犬や猫を食べている。住民のペットを食べている。これが我が国で起きていることだ」 この発言には討論会の司会者が「市当局に確認したところ事実ではない」とすぐにファクトチェックを行い、嘘であることを指摘した。 この“ペット発言”で、トランプ氏がやり玉に挙げたのはハイチ系移民だ。この発言に関して10月16日、トランプ氏がフロリダ州で開催したヒスパニック系の有権者との集会で、以下のようなやり取りがあった。 「スプリングフィールドの話を本当に信じているか?」との聴衆の質問に対し、トランプ氏は「報道されたことを言っている」と回答。情報源については「新聞」としながらも新聞名は明かさず、重ねて、何の根拠もなく移民が「他にも食べるべきではないものを食べている」とも発言した。 杉田弘毅氏(共同通信特別編集委員)は、今回の大統領選では経済と並び移民問題が大きなカギを握るとし、以下のように分析した。 全くの事実でない、嘘そのもので、ハイチ人を侮蔑する酷い発言だ。ただ、注意しなくてはならないことは、アメリカ人のおそらく9割ぐらいが、事実関係は別にしても、不法移民の増加が社会の安定を損ねているという認識を持っている。その中で、トランプ氏の発言は移民問題に対する人々の心の中の、モヤモヤしている不安感に刺さる。この発言を聞くと、大統領の資格はないと我々は思うが、この発言後の彼の支持率は全く下がっていない。むしろ少し上がっている。ということは、アメリカ国民のかなりの部分が、彼の発言を正しいとは思わないにしても、しっかり移民問題に向き合う、きれいごとでない政策を求めているということだ。ハイチはもともとフランスの植民地で、スペイン語を話すヒスパニックとは異なる。巨大なコミュニティをつくり、アメリカ社会に完全に溶け込んだヒスパニックの人々の前での、ハイチ人移民に対するこうした発言は、差別意識を助長する、けしからんものだが、それがどれだけ票に結びつくか、トランプ氏は計算づくであろうと感じる。付言すると、このスプリングフィールドのハイチ人は不法移民ではない。合法的に米政府から許可を得て住んでいる。それにもかかわらず、スケープゴードになっていて、非常に気の毒だ。 末延吉正氏(ジャーナリスト)も、こうしたトランプ氏の移民政策に対する支持の広がりの背景には、国民がポリティカルコレクトでは解決しないアメリカの問題を、本音で語る代弁者を求めていると分析した。