米7月CPIは物価上昇率の着実な低下傾向を裏付ける:FRBは9月に0.25%利下げか
米労働省が14日に発表した7月CPI(消費者物価)は、前年比で鈍化傾向が続いた。CPI総合は、前月比+0.2%と予想外に同-0.1%と下振れた6月分から上昇したものの、前年同月比では+2.9%と前月の同+3.0%から低下した。2021年3月以来初めて3%を下回った。 変動の激しい食料・エネルギーを除くコアCPIは、前月比+0.2%と前月の同+0.1%を上回ったが、前年同月比では+3.2%上昇と、前月の同+3.3%から縮小し、2021年4月以来の低水準となった。中古車、新車、航空運賃などの価格下落が目立っている。 事前予想をやや下回った今回の7月CPIは、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げを実施する可能性を高めたが、金融市場は大きく反応していない。金融市場は既に9月のFOMCでの利下げをほぼ完全に織り込んでいたためだ。 今の局面で重要なのは、物価指標ではなく経済指標だ。足もとでの株式市場の動揺も、米国景気の悪化懸念に端を発したものだ。景気悪化懸念が浮上し、それを受けて株式市場が動揺すると、FRBは9月のFOMCで0.25%ではなく0.5%の利下げを実施するとの観測が浮上した。それを受けてドル安が進み、8月5日には一時1ドル141円台まで円高が進んだ。 現在は、株式市場が安定を取り戻す中、大幅利下げの観測が後退し、それを受けてドル円レートも幾分円安ドル高方向に振り戻されている。 ただし、主要な米国経済指標の発表がない中、金融市場での米国景気悪化懸念はなお解消されていない。8月15日に発表される米7月小売売上高、7月鉱工業生産、新規失業保険申請者数などの経済指標が注目される。しかし、金融市場の景気認識に大きな影響を与えるのは、9月初めに発表される8月分雇用統計であり、そこまでは、金融市場での景気悪化懸念が燻ぶり、株式市場は不安定な動きが続くだろう。 現状では9月に0.25%の利下げをメインシナリオとしたいが、雇用統計などで米国景気悪化懸念が強まれば、FRBが9月に0.5%などより大きな幅での利下げを実施するとの観測から為替市場では再び円高ドル安の動きが強まるだろう。それは、日本での急速な円高株安傾向を再び引き起こす可能性がある。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英