まもなくシーズン2配信開始の『イカゲーム』 主人公を演じたイ・ジョンジェが俳優として持っていた勇ましさ
韓国のNetflixシリーズ『イカゲーム』は2021年9月に配信されると、大きな反響を呼んだ。当時、Netflix史上最高の韓国産作品となり、日本でも社会現象となったことは記憶に新しい。 【写真を見る】Netflixシリーズ『イカゲーム』の『ムクゲの花が咲きました』 そもそも同作品は大金をかけた"デスゲーム"というジャンルで、日本では『カイジ』シリーズやNetflixシリーズの『今際の国のアリス』(2020年)などがすでにヒットしており、真新しいと感じる部分は実はそれほど多くない。 あえて『イカゲーム』の特徴を挙げるならば、やはりそのゲームのシンプルさだろう。韓国出身の人であれば一度はやったことのあるゲームがモチーフとなっており、『だるまさんがころんだ』や、『ダルゴナ(カルメ焼きの型抜き)』など見てすぐに理解できるものが多い。その他の『綱引き』や『飛び石ゲーム』にしても、どのようなルールかを逐一確認する必要がなく、作品全体のノイズとなりそうな部分を極限まで削っている。 おそらく『イカゲーム』が見せたかったのはデスゲームそのものよりも、人間の感情が透けて見えるドラマ部分ではないのだろうか。もちろん、デスゲームによる戦いにはハラハラドキドキがあり、多くの血が流れるようなスリルもあるのだが、『イカゲーム』では全9話に対して6つのゲームしか行っていない。つまり「1話1ゲーム」のような構成にはなっておらず、それ以外の時間はそれぞれの人間の思惑や思考などをしっかりと描いている。 徐々に本来の人間味を失っていくチョ・サンウ(パク・ヘス)や、逆に一匹狼から人と触れ合う大事さを取り戻すカン・セビョク (チョン・ホヨン)など、主要キャラクターたちの心の移ろいは見ていればしっかりと理解できる。 デスゲームの裏側で進むイカゲームの真相と黒幕の存在にももちろん注目だが、やはり主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェの見事ななりきりを見逃すことはできない。 ソン・ギフンは母親の金でギャンブルに明け暮れ、事業も失敗して多額の借金を抱えているいわゆる"クズ"だ。だがその一方で、自分を犠牲にしてまで人を助けようとするお人好しでもある。 その絶妙なバランスでなりたつ本作の主人公をイ・ジョンジェは見事に演じきっている。イ・ジョンジェはこれまでの俳優キャリアではその顔立ちから知性的な役柄の印象も強かったが、無精髭とボサボサの頭でソン・ギフンを表現。決して頭がキレたり、豪運でギャンブルに強いというタイプの主人公ではないが、人懐っこい笑顔もあってどこか憎めない人間へと昇華させる。登場した瞬間から明らかに"いい人オーラ"が漂い、『だるまさんがころんだ』では「最後までやりきってくれ」と見ていると熱が入るし、『型抜き』でもある突破口を見出した時には必死な姿も素直に応援できるのだ。 そんなソン・ギフンもゲームを重ねていくうちに葛藤や変化も見られる。第4ゲームでの「ビー玉あそび」ではこれまでともに苦難を乗り越えてきた老人オ・イルナム(オ・ヨンス)との戦いを余儀なくされる。一度は負けに近づいたギフンだが、イルナムが認知症であることを利用し、騙して勝利を得ようとする。これまでの戦いにおいて最も嫌ってきたことを自らがしてしまっているという苦しさを表情で見せつつ、さらにイルナムが実はすべてをわかったうえで勝利を譲る辛い別れは本作のハイライトのひとつだろう。 そして、最終ゲーム『イカゲーム』では、本来イ・ジョンジェが俳優として持っていた勇ましさがギフンにもしっかりと乗り移ったように感じた。それは、最後の相手が自分の信念から外れた行為をして勝ち上がってきたこと、だからこそ決して負けることができないという思いが起因しているわけだが、スーツを着て死地へと赴く姿は第1話のソン・ギフンとは見違えるほどだ。 なお、『イカゲーム』はシーズン2(12月26日配信)とシーズン3の独占配信も決定済み。イ・ジョンジェの新たな魅力が見えたシーズン1を今のうちからチェックしておくことを勧めたい。 文=まっつ
HOMINIS