思い切り打てる場所「なければ作ろう」 まるで秘密基地…中学生を夢中にする“手作り練習場”
同級生だった山本監督に声をかけられた
息子たちが成長し、施設の使用も少なくなってきた頃だった。中学時代の同僚だった現在、市川南ポニーの山本芳洋監督が中学硬式チームを発足するとなり、相談を受けた。施設の使用と併せ、投手コーチとして力を貸してほしい、と。宇田川さんは当時、違うチームでコーチをしていたが、熟考の末、子どもの頃の仲間と一緒に、野球の楽しさを教える道を選んだ。 市川南ポニーは創設間もないが、着々と力をつけている。今夏のポニー全日本選手権大会では関西の強豪・関メディベースボール学院に1-4と善戦した。「今まで打てなかった子が、試合や練習で打てるようになっているのを見るとうれしい」。レベルアップをしている姿を見るたびに、施設を作り、貸している喜びを噛み締める。 所属選手は、使用の申し出があれば平日に利用可能。ただし維持費はかかるため、1回100円を支払うルールになっている。山本監督は「バッティングセンターに行くよりも、安いと思う」とボールをどんどん打ち返す子どもたちを見つめる。100円玉を握りしめ、自主的に平日練習に来る選手には特に指導はせず、最初と最後だけ選手を集めて、言葉をかけていた。 都心のチームにおいて、練習場所の確保は深刻だ。専用球場を持っているチームは一握り。子どもたちが活動できる場所づくりが課題となっている。環境を作ってあげたいというのが野球に携わる大人の思いでもある。 宇田川さんは室内練習場のスペースで、今年チームを退団し、4月から高校生になる選手とキャッチボールをしていた。スローイングのフォームの調整だという。「野球って楽しいなっていうことを常に教えているつもりでいます。私の思いとしては、チームの全員が高校で野球をやってもらいたいんです」。今年、卒団する選手たちは全員、高校で野球を続けるという。それを聞いた時は最近で「一番うれしい」ことだったと顔を緩ませた。 中学野球を引退した子でも戻れる場所があるのもいい。打ち終わった子どもたちは笑顔で施設を後にした。その様子を監督、コーチ、トレーナーらが優しい表情で見送っていた。限られた環境の中で、創意工夫で練習を重ねていく――。2021年に創部したばかりの“若いチーム”が近年、力をつけている理由がそこにはあった。
楢崎豊 / Yutaka Narasaki