習近平主席との“両手握手”で外交的敗北を喫した石破茂首相 「日中と日米のバランスを取る」外交指針のなかでトランプ政権とどう交渉すればよいのか
ドナルド・トランプ氏の大統領返り咲きにより、世界情勢は不確実性を増している。難しい舵取りを迫られる石破茂・首相だが、カギとなるのは“超一強体制”を築き上げた中国・習近平政権との関係性だという──新刊『あぶない中国共産党』を共著で発表したばかりの2人、中国に関する著書が多数ある社会学者の橋爪大三郎氏と元朝日新聞中国特派員のジャーナリスト・峯村健司氏(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)が激論を交わした。(文中一部敬称略)【全3回の第2回】 【写真】習近平氏は前列で笑顔。石破茂首相は後列 G20サミット2日目の集合写真の撮影に応じる各国首脳
習近平との“両手握手”で外交的敗北
峯村:日中に目を転じると、11月中旬、APEC首脳会議が開かれたペルーで、日中首脳会談が行なわれました。日本産水産物の禁輸解除や中国における邦人の安全確保、中国の領空侵犯問題などが話し合われたこと自体は率直に評価したいと思います。 一方、習近平・中国国家主席とカメラの前で握手した際、石破首相だけが両手を差し出したことが、報道などで話題になりました。 橋爪:日本人も国際社会でふるまう場合には欧米主要国のプロトコルで行動しなければならない。イロハのイです。首相は当然、事前によく練習しておかないとだめ。 峯村:中国側はカメラから見て必ず右側に立ち、左側に外国要人が立つようにします。そこで右手を差し出した習近平氏に相手が右手で応じると体が習近平氏のほうに向き、その手が引っ張られれば傅(かしず)いているように見えるからです。そういう絵になった瞬間、負けなんです。習近平氏の右手を石破首相が両手で握る写真が撮られたことは、外交的敗北の一つの例です。 日本の外交指針は「日中と日米のバランスを取ること」ですから、中国との関係を梃子にしたうえでトランプ次期政権とも交渉を始めなければなりません。
解散総選挙を覚悟すれば野党交渉の迫力が違ってくる
橋爪:トランプからどんな要求がくるか。経済か外交安保かわかりませんが、アメリカに言われる前に先手を打って法案をまず作り、タイミングを見て国会でゴリゴリやって野党を説得する。決裂すれば解散総選挙をすればいい。夏の参院選を待つ必要はない。 峯村:日本が先手を打つために今、石破政権ができるのは、防衛費の対GDP比2%への増額の早期実現です。トランプ1期目で国防省幹部を務め、次期政権入りの可能性があるエルブリッジ・コルビー氏は、来日した際、「日本は『2027年までに2%』と悠長なことを言っているが、3~4%まで高めないと中国の脅威とは向き合えない」と私に忠告しました。 橋爪:石破さんが解散総選挙を覚悟しさえすれば、野党交渉の迫力がまるで違ってきます。交渉がまとまれば政権の手柄です。まとまらず解散総選挙をやれば、それも石破政権の手柄になる。いずれにしても、ボールは石破さん側にあると思います。 峯村:おっしゃる通りです。日米関係においても、何もせずにトランプ氏から「会ってくれ」と言われるわけがないので、ボールは石破さんにある。 橋爪先生との共著『あぶない中国共産党』でも指摘しましたが、日本は安全保障のすべてをアメリカに頼るだけの関係を脱却し、軍事面ではアメリカを頼りつつも、“中国のインテリジェンス情報についてはアメリカに提供する”という関係を目指すべきだと思います。 (第3回に続く。第1回から読む) 【プロフィール】 橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)/1948年、神奈川県生まれ。社会学者。大学院大学至善館特命教授。著書に『おどろきの中国』(共著、講談社現代新書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)、『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(ともに共著、集英社新書)、『隣りのチャイナ』(夏目書房)、『火を吹く朝鮮半島』(SB新書)など。 峯村健司(みねむら・けんじ)/1974年、長野県生まれ。ジャーナリスト。キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。朝日新聞で北京特派員を6年間務め、「胡錦濤完全引退」をスクープ。著書に『十三億分の一の男』(小学館)、『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)など。 ※週刊ポスト2024年12月20日号
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