ベトナムは米国からF16を買うのか? トランプ政権の誕生が「千載一隅のチャンス」になる理由
(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問) 【本記事の写真】ベトナム・ハノイで北朝鮮の金正恩総書記との会談後に記者会見を行うトランプ大統領 米国は2023年にベトナムに12兆円(1ドル150円で換算)の貿易赤字を計上した。最も赤字額が多いのは中国の42兆円だが、ベトナムに対する赤字も無視できない。 一方ベトナムは中国に7兆円の貿易赤字を計上している。ベトナムは携帯電話など電子製品の部品を中国などから輸入して、それを組み立てて米国に輸出している。ベトナムは中国から米国への迂回輸出の拠点になっている。来年(2025年)、トランプ大統領はこれを問題視するに違いない。関税をアップさせると脅しをかけてくるかもしれない。 ベトナム経済において貿易は重要な位置を占めており、現在のベトナムは貿易立国と言っても過言ではない。米国への輸出減少は経済に致命的な打撃を与える。 それを防ぐために、ベトナムは貿易不均衡の是正を迫られた時のことを、よくよく考えておく必要がある。
■ トランプ大統領に持ちかける「ディール」 今年になってウクライナはF16戦闘機を実戦に投入した。米国から供与されたF16は10機程度とされるが、それでも戦場で存在感を示している。米国は2028年までにウクライナに80機を供与する予定とされる。 ベトナムのハノイでは、米国からF16戦闘機を輸入することが密かに語られている。これまでベトナムはロシア製のスホーイ30戦闘機を使用してきたが、現在F16に興味を示している。昨年9月にバイデン大統領がベトナムを訪問したが、その直後にベトナムの専門家が渡米して、F16の導入について協議したとされる。 トランプ大統領から貿易不均衡の是正を迫られた時に、F16戦闘機の購入を言い出すことによって関税のアップを回避したい。そんな話が囁かれている。 F16は1機約100億円であり、100機程度を購入すれば貿易黒字を1兆円減らすことができる。米国でパイロットの訓練を行いまた補充部品を購入すれば、それも赤字解消に貢献する。 トランプ大統領はディール(取引)が好きであり、眼に見える成果を好むから、F16を購入すると約束すれば米国との貿易をこれまで通り続けて行くことができるかもしれない。そんな思惑が語られている。 ただこれはベトナムと米国の間だけの問題では済まない。まずロシアの怒りを買う。ソ連の時代からロシアはベトナムを支援してきた。そんなこともあり、現在、ベトナムの兵器はほぼロシア製であり、ロシアの兵器産業にとってベトナムはお得意様である。そんなベトナムが高価な戦闘機を米国から購入することになれば、プーチンは大いに怒るだろう。