「受刑者に便宜を図る必要はない」政府の通知が阻む社会復帰 マイナンバーカード、出所後もすぐ取得できない仕組み
全ての住民に番号を割り当てるマイナンバー。政府は、ほぼ全国民にマイナンバーカードを行き渡らせる目標を掲げ、河野太郎デジタル相が「達成」を3月に宣言した。ただ、こぼれ落ちている人もいる。刑務所の受刑者だ。実は法務省が2015年の時点で、全国の刑務所に対し「受刑者に便宜を図る必要はない」と通知していた。 【一覧】マイナンバーを巡る主なトラブル
公的な身分証でもあるマイナンバーカードは、元受刑者が社会復帰のために住居を確保したり、職探しをしたりする際などに重要だ。実際、運転免許証と違って資格が必要なく、費用もほとんどかからないため、元受刑者の支援機関では重宝されている。それを受け取れないため、更生のスタート地点でつまずいている形だ。 「出所後に取得すればいい」という反論が聞こえてきそうだが、実際は簡単ではない。再出発を支援する現場を見つめると、出所後に取得しようとしても、多くの困難に直面する実態が浮かんできた。(共同通信=広川隆秀) ▽「便宜は図りたいが…」 マイナンバーカードは原則、申請者本人が役所を訪れて受け取ることになっている。受刑者は、病院への通院など何らかの事情で刑務所の外に出る場合、複数の刑務官による付き添いが事実上義務付けられている。マイナンバーカードを入手できるように付き添うといった対応はできないのだろうか。
矯正業務に携わる法務省関係者に尋ねたところ「難しい」という。 「逃走防止の観点からもリスクがあり、貴重な税金を使ってまで特別対応できるのか」 一方、別の関係者はジレンマもあると明かす。「社会復帰を考えると、われわれも便宜を図りたいとは思っているのだが…」 では代理人による取得はどうか。例えば施設に入所する寝たきりの高齢者は、「やむを得ない場合」として代理人による受領が認められている。栃木県小山市のホームページを見ると、代理人への交付が可能な例として「刑務所収監中」も3月まで明記されていた。現在は「施設入居者」と表記を改めたが、引き続き受刑者も該当するという。東京都品川区も同様で、大阪市は手続きさえ整えば、受刑者への代理人交付も可能としている。 ところが実際はそうなっていない。大きな理由は、身寄りのない人が多いという点。再犯者の多くは帰る場所がなく、身寄りがないことが指摘されている。